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老舗には日本の伝統と文化が宿っている!?〜『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』

◆福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである コロナ禍「名店再訪」から「保守再起動」へ』
出版社:河出書房新社
発売時期:2023年4月

今年9月、惜しまれつつ他界した文芸批評家の最晩年のエッセイ。サンデー毎日に掲載された文章を収めています。

コロナ禍の下ではフィジカルディスタンスが叫ばれ、そのあおりでとくに飲食店の経営が悪化しました。これは由々しき事態です。飲食店は料理や酒を出して利益を得ているだけの存在ではないというのが福田和也の持説です。

 ……店主はそれぞれ、こんなものを世の中に提供したいという志をもって開業し、それが支持されて繁盛店にもなり、何代も続く老舗にもなる。その営為は日本の伝統や文化と結びついている。(p47)

そこで福田は自身が通い続けた都内のお店を訪ねてエールをおくります。大井町や巣鴨のとんかつ屋、銀座のおでん屋や理容店、上野の蕎麦屋や居酒屋……。

この種の探訪記ならもっと他に気の利いた文章をしたためる書き手がいるかもしれません。が、本書の淡々とした調子に渋い味わいを感じる読者もいるのでしょう。とんかつ屋の主人の「父からは、メニューも味も店の佇まいも何一つ変えるなと言われています」というコメントに良くも悪しくも保守論客としての共感が宿っています。

ほかに角川春樹や石原慎太郎に関する批評文も収録されています。ちなみに書名は福田恆存の言葉を借用したものです。

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