惨状の背景を理解するために〜『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』
◆高橋和夫著『なるほどそうだったのか! ハマスとガザ戦争』
出版社:幻冬舎
発売時期:2024年4月
独特の語り口で人気を集める研究者が錯綜した中東情勢をわかりやすく解説した本です。
なぜ、産業のないガザ地区で、ハマスが生き延びてこられたのか?
なぜ、タイ人の人質が多く取られたのか?
ハマスはどれくらい民衆の支持を得ているのか?
……一見素朴な疑問にも答えるべく、簡にして要を得た説明で読者を引っ張っていく。例によってパレスチナの問題を宗教的な側面にのみスポットをあてて考えることを戒め、パレスチナ問題の本質とは「土地と水を誰が支配するのか」という問題だと言い切ります。
ハマスは「テロ組織」と言われていますが、そもそもは純粋にイスラム教を信仰し宗教活動をしていた団体です。ハマスの名は、アラビア語の「イスラム・抵抗・運動」の頭文字をつないだもので、「情熱」という意味もあります。最終的にはイスラエルの解体を目指していますが、当初は投石など比較的平和的な抵抗手段をとっていました。
けれどもイスラエルの強引な占領政策の反動として、ハマスも次第に過激な手段に打ってでるようになったらしい。PLOに限界を感じるパレスチナ人がハマスに期待を寄せるようにもなりました。
一方、イスラエル側でも和平を望まない政治勢力がハマスの存在を黙認、利用してきました。パレスチナ側がPLOとハマスに分断されることは、政治交渉を進展させたくないイスラエルにとってよき口実となってきたからです。
軍事衝突は以前からありましたが、イスラエル側はハマスの勢力をそぐ「芝刈り」程度の姿勢で済ませてきました。ところが今回は「根絶やし」を図っています。昨年10月のハマス側の攻撃による死者千二百人超という犠牲が大きすぎました。むろんそれはハマスにとっても想定外の結果であったのですが。
イスラエルによるガザ攻撃については、もちろん批判的な論評を加えていますが、同じ時期に出た『なぜガザは戦場になるのか』 ほど踏み込んだイスラエル批判にしていないのは、今日の状況の背景をまずは把握するという本書のコンセプトに拠るものでしょう。
いずれにせよ今日のガザ情勢の大まかな構図を知るには良き入門書であることは確かだと思います。「中東情勢の不安定さに驚くより、日本人が中東に依存していながら何も気にしていないところに、私は唖然とする」というまとめの言葉に今の日本に対する著者の強い危機感が表明されています。
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