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小説という不謹慎!?〜『カーテンコール』

◆筒井康隆著『カーテンコール』
出版社:新潮社
発売時期:2023年10月

筒井康隆「最後の作品集」という触れ込みの短編集ですが、本当に最後になるかどうかは例によってわかりません。本書を読んでこれからもこの作家の作品を読み続けたいと思ったのは私だけではないでしょう。

筒井の文学的技巧と機知がちりばめられた25の掌編。SF。恐怖。ドタバタ。夢幻。言葉遊び。人情噺……。それぞれに趣は異なっていますが、どれもこれも筒井らしいといえば筒井らしい趣向の小品です。

他界した息子と夢の中で再会する〈川のほとり〉。タイムマシーンに乗ってやって来た古代人が現代の料理を堪能する〈美食鍋〉。戦前の佳き文学的風趣を醸し出す〈お咲の人生〉。筒井らしいミステリアスな雰囲気で読ませる〈手を振る娘〉。コロナ禍の自粛を皮肉った〈コロナ追分〉。落語的ギャグをまぶした夫婦のドタバタ劇〈塩昆布まだか〉。極め付きは自作の登場人物が次から次へと現れては病床の作家と対話するポストモダン風?の〈プレイバック〉。

本書全体に漂っているのは、老いと死、孤独の気配ですが、枯淡の境地に落ち着くわけではもちろんありません。そこには筒井ならではのヒューモアやアイロニーが横溢しています。

筒井は本書に関するインタビューのなかで「小説というものは、積極的に不謹慎でないといけないんじゃないか」と述べています。最近は文学者までもが民主主義の重要性を生真面目に主張するような時代になりました。もちろん文学者にそのようなことをやらせてしまう現実の方に問題があることは確かですが、そのような時勢にあってもなお優等生であることを拒み、「不謹慎」であることを目指す筒井康隆という文学者は貴重な存在ではないでしょうか。

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