宗教国家アメリカのふしぎな論理_Fotor

神学に根拠づけられた批判精神〜『宗教国家アメリカのふしぎな論理』

◆森本あんり著『宗教国家アメリカのふしぎな論理』
出版社:NHK出版
発売時期:2017年11月

アメリカ合衆国は、イギリス国教会からの離脱とイギリス国家からの独立によって成立しました。出発点において、旧世界を批判し新しい宗教国家を作るという気概に満ちていた国です。米国民が繰り返し表明する政府や権力への不信感は、政治ではなく神学に根拠づけられていると著者の森本あんりは考えます。
そのような宗教国家という認識に基づいてアメリカ社会の変遷や政治動向を読み解く。それが本書のコンセプトです。

宗教国家アメリカには二つの伝統があるといいます。「富と成功」の福音と反知性主義です。

まず、「富と成功」の福音とはいかなるものでしょうか。それは次のような理路をたどります。

自分は成功した。大金持ちになった。それは人びとが自分を認めてくれただけではなく、神もまた自分を認めてくれたからだ。たしかに自分も努力した。だが、それだけでここまで来られたわけではない。神の祝福が伴わなければ、こんな幸運を得ることはできなかったはずだ。神が祝福してくれているのだから、自分は正しいのだ。(p36)

このようにして神を持ち出すことで自分の経済的成功=幸福を正当化してきた。これがアメリカ人の神学的心性だというのです。
もちろんこれは「勝ち組の論理」。森本はこのような神義論では「負けを適切に受け止めることができない」と指摘することも怠りません。

アメリカにおける反知性主義は、現代の日本で使われている語義とは根本的に異なります。アメリカの反知性主義は、知性そのものへの反発ではなく、知性と権力との固定的な結びつきに対する反発として定義されるのです。

その神学的背景として、森本は二つの集団概念を見いだしています。
すなわち、チャーチ型とセクト型です。前者は「社会全体を覆っているエスタブリッシュメントのグループ」を指します。国家や政府を地上における神の道具と見なし、楽観的で積極的な社会建設を目指すものです。
対して後者は「地上の権力をすべて人間の罪のゆえにしかたなく存在する必要悪」と考え、それに対する監視の必要性を説きます。アメリカにおける反知性主義はそのようなセクト型の精神から養分を得てきました。

プロテスタント神学の観点からアメリカの政治史を振り返ると、トランプ現象を説明できるだけでなく、過去にもトランプに似た大統領が何人も存在したことが理解できます。アンドリュー・ジャクソン、ドワイト・D・アンゼンハワー、ジョージ・W・ブッシュ……。

「富と成功」の福音と反知性主義はともにポピュリズムに力を与えてきました。そこで、アメリカの宗教国家的側面を概観した後にはポピュリズムの蔓延に関する考察が加えられるのですが、そこでの議論は私にはいささか凡庸に感じられました。

本書におけるアメリカ政治の解説は総じてわかりやすいものです。ゆえに宗教上の複雑な要素が大胆に簡略化されているとも思われ、その点は注意が必要かもしれません。

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