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生命を賭けて仕事をするということ〜『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』

◆伊藤祐靖著『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』
出版社:文藝春秋
発売時期:2016年7月

本書は自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に関わった元自衛官の手になる本です。率直にいって「思想」的な部分では、著者が問いかける愛国心や憲法の問題は失礼ながら陳腐なもので「何を今さら」感は否めません。またアジア諸国の人々と交わした対話として「日本人は騙しやすい」という趣旨の話ばかりを並べているのも旧日本軍が過去に行なった言動を思い起こせば、著者自身がどこまで自覚しているのかわかりませんが、政治的な書きぶりだと思います。

しかし「みょうこう」航海長在任中に起きた「能登半島沖不審船事件」を体験したことが特殊部隊創設の直接の動機となったというのは日本の安全保障を考えるうえで大いに示唆的な挿話には違いありません。私たちの知らない自衛隊内部の訓練の実態や組織事情について具体的に記述しているくだりなどもマスコミで伝えられることはほとんどありませんから非常に興味深く読みました。

生命を賭して公務についている人々の存在に思いを及ぼすことはやはり大切なこと。「『他国とのお付き合い』で戦争などまっぴら御免」というオビの謳い文句は本書の内容からすれば充分な説得力をもって響きます。現政権が推進している一連の安全保障政策を再検討するうえで一読に値する本です。

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