不安な個人_立ちすくむ国家

モデル無き時代を生きていく〜『不安な個人、立ちすくむ国家』

◆経済産業省若手プロジェクト著『不安な個人、立ちすくむ国家』
出版社:文藝春秋
発売時期:2017年11月

安倍政権は経済産業省の官僚を重宝しているといわれています。それと関連しているのかいないのか分かりませんが、経済産業省は2016年、「次官・若手プロジェクト」を立ち上げ、翌年5月にレポート〈不安な個人、立ちすくむ国家〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜〉を出しました。
プロジェクトでは「富の創造と分配」「セーフティネット」「国際秩序・安全保障」の3つのチームに分かれて議論をした後、合流してチーム全体としてのメッセージをレポートの形で公開したわけです。

それはネットを中心にたいへんな反響を呼んだらしい。本書はそのレポートをもとに、3人の有識者を迎え座談会を行ない、あわせてプロジェクトのメンバー6人のインタビューを収録して書籍化したものです。

レポートは日本社会が迎えている様々な苦境に対して危機感を隠さず、真正面から議論しようという気構えが伝わってくる内容です。

「ある年齢で区切って一律に『高齢者=弱者』として扱い、個人に十分な選択の機会が与えられていない」ことを批判的に指摘し、母子家庭やこどもの貧困を「自己責任」と断じる風潮に警鐘を鳴らしています。また「勤労世代が高齢者を支える」という考え方から「子どもを大人が支える」という考え方への転換を提案しているのも傾聴に値するでしょう。

ただし違和感も残ります。シルバー民主主義への懐疑や社会保障の基本的な考え方など経産省が直接所掌していない問題についての提起はそれなりに踏み込んだものですが、原発など批判の多い電源選択問題についてはレポートのなかではまったく触れられていません。電力の供給をどうするか、今後も核廃棄物を出し続けるのか、という問題は日本の将来にとって最重要課題の一つだと思うのですが。厳しい自己批判を迫られるような所管の難題については俎上にのせるのを周到に回避したという印象です。

本書のメインコンテンツともいえる3つの座談は私にはいささか退屈でした。レポートをじっくり読んだうえでの建設的発言に乏しく、従来からの持論を思いつくままに述べただけといってしまえば言い過ぎでしょうか。養老孟司、冨山和彦、東浩紀という顔ぶれをみればおおよその察しはつくというものですが、本にするならもう少し相手を選んだ方がよかったでしょう。

ともあれ経産省というエリート官庁で仕事をしている若い人たちの問題意識を知ることができるという点では興味深い本といえます。

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