噛み締めるほどに甘くなってゆく!?〜『絶望キャラメル』
◆島田雅彦著『絶望キャラメル』
出版社:河出書房新社
発売時期:2018年6月
青春小説でデビューした島田雅彦が35年ぶりに青春小説にかえってきました。大企業にスポイルされつつある疲弊した地方都市を舞台に繰り広げられる若者たちのささやかな冒険譚。そこに地方の活性化・町おこしが重ね合わされています。
物語の舞台となるのは架空の都市・葦原。本能寺なる寂れた寺に一人の男が寺の住職としてやってくる。江川放念。般若心経のTシャツに革ジャン、ジーパンにウエスタンブーツを履いた不思議ないでたちの僧侶。若者が夢や希望を抱けない現状に愕然とした彼は、若い埋もれた人材こそが町を救うはずだと考え、原石発掘プロジェクトなるものを開始します。
河原で石投げをしている地肩の強そうな黒木鷹。天性の美貌をもった青山藍。葦原高校一の秀才で微生物オタクの白土冴子。そして凡人ながら町の情報に精通している緑川夢二。
放念のもとで夢と希望を感じとった若者四人。鷹は甲子園へ。藍はアイドルに。冴子は研究者の道を。そして夢二は……。名前に四つの色が込められたカルテットが文字どおり自分たちの色を輝かせていく過程を調子良く描きだしていきます。
若者が織りなす青春群像に島田は現代のさまざまな病理的現象をからませていきます。地方行政と企業との癒着。芸能界におけるブラックなアイドル管理。大学における研究者ヒエラルキーの封建性。……などなど。若者と大人という対立軸のみならず、地方都市と東京、地域のエコロジーと資本主義などの種々の対立が浮かびあがってくるのです。
前市長として市政を食い物にする人物が武中塀蔵という名だったり、野球コーチとなる黒原清人は清原和博を想起させる大阪人だったりと、実在の人物をパロディ化・戯画化したようなキャラクターも登場し、島田らしい諷刺精神も随所に発揮されています。
野球の試合の描写には少しぎこちない箇所も見受けられるものの、ウンコちびりそうになりながら力投する鷹のすがたはとりわけ印象的。冴子がそんな鷹に「ため息ボール」を伝授したりするのもおもしろい。
──絶望は噛み締めるほどに甘くなってゆく。絶望から希望へ。さほどの深味は感じられないけれど、混迷の時代における一服の清涼剤のような青春小説といっておきましょう。
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