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北信州・秋山郷に伝わる洗練の郷土料理 平椀【前編】

はじめに

● 2022年8月3日(水)晴れ 34度
● 同行者:横山タカ子(料理研究家)、上野啓祐(信濃毎日新聞記者)     
● 場所:長野県下水内郡栄村小赤沢 秋山郷 民宿 出口屋 
    025-767-2146 2代目女将 福原 桂子さん

 長野駅から車で2時間半の秋山郷。新潟県との県境に位置し、日本一の豪雪地帯と言われている。今回の旅は、料理研究家の横山タカ子さんと信濃毎日新聞の上野記者の取材に同行する形となった。出かける前日、上野さんからは「大変な秘境です。覚悟しておいで下さい。」とメールがあり、不安がよぎったが、覚悟を持ってでかけた。

 私はかねてから、郷土料理の里をしっかり見つめたいと願っていた。それは、2018年から2年間に渡り「つくろう!にっぽんの味47」というシリーズ番組を担当し、駆け抜けた経験から、日本全国の食の魅力をじっくりと知りたい伝えたいと願っていたからだ。旅の同行を受け入れてくれた上野記者は、終始の運転を担って下さり、安心して山里への旅をスタートした。

 横山さんはかれこれ20年近く、長野県全域の「おらほのごっそ」を聞き書きしている大ベテラン。特にこの春からは、月に一度、信濃毎日の「信州暮らしの宿る食」で連載をしている。その横山さんにとっても栄村・秋山郷の訪問は念願だったという。

(連載記事はこちらhttps://www.shinmai.co.jp/news/list/yadoru_shoku

秋山郷の青々と生い茂る樹木

 秋山郷は覚悟をはるかに超える山奥で、車の音も人の声もかき消すほどの静けさに包まれていた。山から湧き出す水が轟々と川になり、その上にしなだれるように樹木が繁茂している。 

民宿「出口屋」

 訪ねたのは、民宿出口屋。マタギで生計を立てていた先代が始めた家庭的な宿。目に前には山と畑、チョロチョロと湧き水が流れ出てくる。風が吹くと、ひんやりとした山の精霊の吐息が、身体の中を通るよう。幽仙境だ。話を伺ったのは、出口屋の2代目女将の福原桂子さん、60歳。私と同い歳。ふっと距離が縮まる感じがした。


民宿出口屋の外観

 出口屋さんは2反の田んぼと野菜畑を持ち、収穫する米と野菜で宿泊客の料理を提供している。宿のお客は、登山者と釣り人らがほとんどで、常連も多いそう。昔は夏に受験生が来ていたという。

福原家の大広間

 「中へどうぞ。」通されたのは、福原家の20畳以上はある広間。なんとそこは仏間で、立派な仏壇やいくつかの遺影が置かれている。そしてなんと言っても、目が奪われたのは熊の毛皮の敷物が3枚も、敷いてある。その部屋に入るなり、横山さんは、しゃんと仏壇の前に進み手を合わせて拝んでいた。その姿はなんともこの地のことを熟知していることを思わせた。慌てて私も真似る。

 この仏間は宿の食事する部屋にもなっているらしく、傍らにお膳が積まれていた。見渡すと欄間には義父がマタギで活躍していた(昭和57年ごろ)数枚の写真が掲げられいる。仕留めた熊をロープでつなぎ、数人のマタギたちが雪山の中を運んでいる勇姿だ。今も桂子さんの夫はマタギをやっているという。普段は農業、トラックの運転手、除雪作業などなんでもやるという。

 台所へ続く壁は帯戸になっていて、黒光りしている。この地の建築らしい品格がある。少しして、窓の前に立った横山さんと福原さんの話が始まった。「出口屋」の言われは、雪解け水が家のそばに湧いて出るところがあることから、先代が名付けたそう。その雪解け水は50年掛けて、ここに流れ着いているとらしい。

2代目女将 福原さんからお話を伺う

 桂子さんは、横山さんの質問の折々に「ここには何でもあるから・・・。」と目を細めて笑いながら話す。桂子さんは同じ栄村の青倉というところの出身で、嫁いで33年。料理は嫁いできてからで、すべては姑から習ってきたと言う。
 
 
5月ごろ、雪がとけて山菜採り。山菜はこごみ、ふきのとう、うど、わらび、たけのこ、ぜんまい、行者にんにくがとれる。秋はキノコ採り。たくさん採れるので塩漬けしたり、ゆでて瓶詰めや冷凍して保存する。

 桂子さんには中学2年の男児が一人。バスで1時間掛けて津南町の中学に通学している。陸上部に所属していて、7種競技の選手だという。栄村にいるたった1人の子どもだ。

提供いただいた料理

● 葬儀料理

平椀(お膳に)
えご(取り回し料理)
きんぴら(取り回し料理)

● 郷土料理

早そば
夕顔の刺身


後編へ続く。


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