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友人の結婚

 人づてに、彼らが結婚するという話を聞いた。
 結婚する新郎新婦は、男の友人であった。同じ大学、同じサークルに所属していて、社会人になってからも月に1度は食事を共にする仲だった。男は、かねてから彼らが恋仲であることは知っていたので、「じきに結ばれるであろう」くらいの予想はしていた。それでも改めて結婚という単語を耳にすると、どこかむずがゆくなった。当人たちほどではないのだろうが。
 友人代表スピーチで語る内容を考えておかねば。まだ未定ながらも、きっと新郎新婦の共通の友人として、なにか、スピーチのようなことを頼まれるのは間違いない。男はそのように意気込んでいた。
 どんな話をしてやろうか。大学時代の彼らのことを話そう。今だから言えるが、新郎には嫉妬していた。練習ではほどほどの熱量のくせに競技の腕は抜群で、センスのあるプレースタイルに、内心、あこがれを抱いていた。そのうえ周りとのコミュニケーションも上手く、あっという間に他者と仲良くなっていった。私は不器用で、練習には人一倍取り組んだが、競技も人間関係も上手くいかなかった。そんな想いを吐露してやろう。それでもって、最後には「あの頃と変わらず、いや、あの頃以上に、君は僕のあこがれになりました。本当におめでとう」なんて締めくくってやれば、きっと新郎も聴衆も大感動のこと間違いない。
 新婦向けの話も用意しておかねば。彼女は練習中、しきりに活動をほったらかして「みんなでクレープでも食べに行こう」などと口にしていた。「今思えば、かたくなに力を入れて練習してばかりいた私をリラックスさせようとしてくれていたのでしょう」だなんて付け加えれば、あっという間に美談になる。新婦なのだから、そのような可愛らしい、なおかつほっこりとするようなエピソードを話して、周囲からのイメージアップを図ってやろう。そうして彼女からも感謝され、聴衆たちも「ふふっ」とほほ笑み、会場は和やかな雰囲気に包まれるに違いない。
 あの人は何者だ?などと注目されるだろう。それだけの名スピーチをすれば。
 男の頭の中のスクリーンには、友人代表スピーチの後に喝さいを浴びる自分の姿がアップで映し出されていた。無意識に口角が上がる。思い出し笑いならぬ、思い描き笑いである。

 数週間後、男は月に1度の食事会で、新郎新婦らと出くわした。そろそろ直接、結婚の予告をされる時期だろう。ご祝儀の準備やスケジュール調整のために、前もって招待者に予告しておくことは大事なことだ。当然、前もって知らせてくれるだろう。男はそう信じていた。
「実は、報告があります」
 いよいよ来るか。男は身構えた。本人たちの口から直接聞くとなると、どこか緊張する。
「実は僕たち、結婚しました。先々週、挙式を挙げてー」

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