ウマノホネ
青天の元、鳴り響くファンファーレ。今日、この青空競馬場にて、年に一度の大舞台、「星空杯」が幕を開けた。
この大会の名前の由来は、この町の夜空が美しいことと、大会の創設者が、トラックを駆ける馬たちに、星空を横切る流星の姿を重ねたこと、そのふたつが発端なのだとか。
「さあ、いよいよこの大会の大一番が行われようとしています」
一通りのレースが終了し、煽るような実況が会場に響き渡る。沸き上がる観衆の声に続き、競走馬の紹介がなされる。
1番レーン、ミウラハルマ。2番レーン、アオゾラリュウセイ。3番レーン、ヒカキンノボイパ。4番レーン、キメツノヤバイ。
次々と有名馬が紹介され、競馬ファンたちは大いに沸いた。最後の馬は、人々の盛大な歓声の前に、その紹介を誰も聞き取ることができないほどであった。誰も知らないような馬なのだろう。「なのだろう」と書いたのは、僕自身、その馬にまったく興味がなく、一瞬ですら見向きもしなかったからである。故に、その馬が存在することすら気づかなかった。
そう、このレースが終盤に差し掛かる、その時までは。
レースが始まると、大方の予想通り、有名馬たちの好勝負となった。トラックからすさまじいばかりの風が吹いてくる。馬たちの走りで生まれた大きな衝撃が、強烈な風となっているのだ。
いよいよ最後の一周。馬たちの競争はさらに激化する。まるで嵐の中。どぅどぅ、と風の化身たちが走り狂っている。その中に、まるでこの場所に似つかわしくない姿かたちのそれは在った。
その姿にやっとのことで気づいた僕は、思わず愕然とした。
ひときわ後続に、白骨化した馬がいたからだ。
その馬(のようなもの)は、前方の熾烈な競争のことなど知ったことなどない、といった様子で、らんらんとトラックを走っている。あまりにゆったりとしたペースだったから、それは逆に威風堂々とした雰囲気さえ醸し出していた。
最後の一周が始まってから少しばかりの時間が経った後、驚くべきドラマが始まる。なんと、「骨」が急激に加速しだしたのだ。今まで目立たたなかったその馬は、一躍、観衆の目を一点に集めた。その加速というものが、まるで正気を失ったロケットミサイルのように、とんでもない勢いだったからである。
トップを走る馬たちが、残り4分の1の距離に差し掛かるころ。「骨」は彼らを鮮やかに抜き去った。そしてそのまま、ゴールラインを突き破っていった。
突然のダークホースの登場。誰か、あの馬の存在を知る者は在っただろうか。いいや、誰も知らなかったことだろう。その馬の名が、元々どのような名前だったのかなど、誰にとってもどうでもよかった。ただ、誰もがその馬の出現に際して同じ言葉を放った。
「どこの馬の骨だ」とー。
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