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不自由な楽園

 革命家が叫んだ。「僕たちは生まれながらにして自由だ!」と。
 その思想はあまりにも過激だった。人は生まれながらにして自由で、どのような感情を抱こうと、何をしようとされようと、咎められる理由はない、というのだ。彼はありのままであることを良しとした。踊りたいときに踊り、笑いたいときに笑い、泣き叫びたいときに泣き叫ぶことを良しとした。
 それだけを聞けば聞こえが良い。自分の感情を解き放ち、自由に生きることを推奨する。過激とまでは言い難い。しかし、ありのままであるとは、人が本来持ち合わせている攻撃性、衝動性をも受け入れるということだ。人を傷つけたいなら傷つければいいし、命を奪いたいのなら奪ってしまって構わない。いわば法律無視の推奨である。
 革命家の扇動に大衆は次々と巻き込まれた。町には自由を謳歌する人があふれた。歌いたい者は歌い、踊りたい者は踊った。笑いたい者は気が済むまで笑い転げ、泣き叫びたいものはその涙が尽きるまで泣きじゃくった。働きたい者は傍目から見るとおかしなくらいに働き、休みたい者はひたすらに惰眠をむさぼり食らう。犯罪者は好き放題に悪さをするし、正義感の強い者は力技に頼ろうとも犯罪者を取り押さえた。
 その結果、どうなったと予想するだろうか?決まりを無視することを推奨するのだから、良くない方向に進みそうなものだろう。しかし、違った。誰もが好き放題やるようになってから、経済は快調に回りだしたし、人々の不満も減った。幸福度の世界平均は上昇、なぜか犯罪も減った。
 人はもとより自由であることで、真価を発揮する生物である、とは、革命家の言葉であった。革命家として行動し続けて10数年、彼はついに人類史上、この上ない革命を起こす。法の撤廃を要請したのだ。法の守護者は当然のごとくその要請を拒むかと思われたが、識者たちにより、誰もが思い通りに在り続けることの好影響が解明されると、容易く法を撤廃した。かくして世界は言葉通りの無法地帯と化し、誰もが己のみに従い生きるようになった。
 自由は誰にでも手に入るようになったかと思えた。しかし、法が撤廃されたことで、実力主義の世の中になった。力の無い者は生きていけなかった。世界は、自由の檻に囲まれてしまったのである。その世界の様相はまさに、不自由な楽園という言葉が似つかわしかった。


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