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無駄

 色鮮やかに飾り付けられた、街の明かりを見つめる、男女がふたり。
「イルミネーション、どう思う?」
男は女に問うた。
「どうって?」
女は食い気味に聞き返した。
「僕はお金の無駄遣いだと思う」
「なんで?」
「無くても生活に支障は無いじゃないか。君はどう思う?」
「私もね、イルミネーションが無くたって生活に支障は無いと思う」
「だろう?」
「それは、イルミネーションがあなたに置き換わっても同じこと」
「え?」
男の心がざわついた。
「私にとって、イルミネーションとあなたは同じようなものよ」
「俺のこと、いらないってことか?」
「最後まで聞いて。生活に支障は無い。でも、お金の無駄遣いではないと思うの」
「俺の存在は君にとって無駄では無いということか」
「だって、イルミネーションが無くたって生きては行けるけど、イルミネーションが無い人生ってつまらないと思うもの」
「そうか、俺なしじゃ人生つまらないってか」
男は軽い笑いを浮かべながら言う。
「そうよ」
女が平然と言い切る。予想外にまっすぐな反応に、男は顔を赤らめながら、自らの後頭部をさすった。彼女を直視出来ず、反対の方向を向いてしまっている。
「それで、今の話を聞いた上で、あなたはどう思う?イルミネーションのこと」
彼女から男に問うた。男は即座に向き直る。
「俺は、今の君の話を聞いても、やっぱりイルミネーションはいらないって思う」
「ふーん、じゃあ、私もいらないってこと?」
「いーや、そういうことじゃないんだなあ」
「じゃあなんだって言うの?」
男は若干の間を置いて言った。
「イルミネーションは無くてもいいけど、君が居ないのは無理だね。イルミネーションが無くても生きていけるけど、君が居なかったら俺は生きていけない」
「あー、そういうことか」
「今、上手いこと言うなコイツ、って思っただろ?」
「うん、思った」
「さすが、私の男。って思っただろ?」
「うん、思った。でも、それを確認してくるところはめんどくさい男だなと思った」
「めんどくさくて悪かったな」
「というか、私が居ないと無理とか、そんなんじゃダメだよ」
「なぜ?」
「それは依存症だから」
「いいじゃん、別に。互いになくてはならないものになってしまおうよ」
「だめだめ。1人で生きていける2人がそれでも一緒にいるって言うのがホンモノなんだから」
「ええー」
「そんな事いいから。イルミネーションを前にして、こんなコントみたいなことやってたら恥ずかしいわよ」
「ロマンチックさが微塵もないよね」
「ホント。いとわろし、って感じだわ」
「なんだよそれ、「なんか笑える」みたいな意味?なんか、この頃そんなネットスラングが流行ってるよね」
「それは「わろす」でしょ。違うわ。「わ・ろ・し」。興が失せる、って意味。「いと」は「とても」って意味。国語の授業で習ったはずよ」
「え、今日が失せる?確かにもう夜だし、そろそろ今日は終わるかもしれない」
「違う違う。わざわざ今日を擬人化するような、分かりにくい比喩表現なんかこの状況で使わないわよ」
「あ、そういうことか」
「そういうことよ。・・・ほんとに分かってるの?」
女は「君が居ないと無理」という男の言葉に微かながら悦に入っていた。男は女のそんな気持ちなど知るよしもなく会話を楽しんでいた。その後も長々と会話は続く。この話にオチは無い。この話に生産性はない。イルミネーションと同じく、このふたりの会話は、必ずしも必要なものではない。しかし、このふたりの会話にオチなんて付けたくない。オチなんて付けたら、きっとこのふたりに怒られてしまうだろう。きっとこのふたりも、オチなんて考えずにくだらない会話を楽しんでいたいに違いないのだ。

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