すれ違い
季節は春。
桜舞う中、大学の卒業式を数日後に控えたその日。
「30まで独身だったら結婚しよ?」
卒業を前にして、幼馴染は語る。
彼女とは小さい頃からずっと一緒だ。
「ははっ。30まで独身とか無いわ」
俺は自信満々で答える。
今まで彼女ができたことなんて無い。
そんな俺でも、
「さすがに30まで未婚だなんてありえない」
だってあと8年だぞ?
社会人になれば大人の魅力も出て、女性から声をかけられることだってあるはずだ。
「……そ」
「なんだよ、「……そ」って?」
「別に」
彼女の態度がなんだか思わせぶりのように感じた。
その態度がなんとなく引っかかり続けて――
*
――そのまま8年が経った。
約束していた30歳。
自信満々だった俺だが、卒業以来、結局恋人すらできなかった。
だって、
「分かったんだ。俺にはお前しかいないんだって」
「えっ」
忙しくて疎遠になっていた幼馴染を、8年ぶりに飲みに誘って伝えた。
「8年間、ずっとお前のことが忘れられなかった」
「ええっ」
すると彼女は引き気味に言う。
「アンタ、まだ結婚してないの……?」
彼女の左手の薬指をよく見ると、指輪に付いたダイヤがきらりと輝いていた。
「な、お前……!?」
「結婚したの。30になる前にね」
「な、なにも聞いてないぞ……!?」
彼女はそれを聞き、むすっとした表情で答える。
「……好きだった人に、さすがに30まで未婚なんてありえない、って言われたから。ちょっと意地悪したかったのよ」
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