cat

 気味の悪い夜だ。なんだか、黒猫にでも出くわしてしまいそうな。
 おそらくは目の前を横切るのであろう。らんらんと目を光らせる、黒い猫に。
 そんな予感は的中して、横断歩道の先に、やはり、猫がいた。
 確かに黒猫だった。
 しかし、その黒は、夜の闇よりも、一層も二層も濃い黒色だった。
 白には数千種類もあるのだと、いつかテレビで聞いたことがある。
 それと同じように、黒が数千種類あったとしよう。
 その中でも最も黒い色でも、目の前の黒猫の黒よりは、黒くない。
 この世の者ならざるような、そんな黒色だった。
 全てを飲み込んでしまうような、黒色。
 どこか、魅力的な。
 吸い込まれてしまうような。
 気が遠くなるほどじろじろと眺め続けていると、いつの間にか景色が変わっていた。
 先ほどまで猫がいた場所に、何故か俺が立っているらしい。
 視線もなんだか低く感じる。
 また、横断歩道の先に、男が立っていて、どこか遠くを見ている。
 ふと、こちらを振り返り「にゃあお」と言った。
 男は、おぼつかない二足歩行で歩き去っていく。
 こちらを振り返ることは、二度となかった。

サポートいただけると、作品がもっと面白くなるかもしれません……!