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詐欺

3000000。「,」を付けないと、ぱっと見では0の数が分からない。

「何の数字か?」だって?

これは、僕が詐欺でだまし取られたお金の数字だ。

「どんな詐欺にあったのか?」だって?

それはそれは、いろいろな方法で騙されたさ。

買ったら金運が上がる壺を買わされたときは、「金運が上がれば、壺の購入代金なんて、余裕でペイできますよ」と言われて30万払った。

貧しい子供たちへの募金を装った、カタコトの中東系の女の子の持つ募金箱に1000円を入れると、「アナタノキモチハ、ソンナモノデスカ?」と煽られ、40万をクレジット決済したこともあった。

それ以外にも、恋人ができるお守りを買わされたり、結婚詐欺にあったり、交通違反をしていないのに罰金を取られたりと、さんざんな目に遭ってきた。

だけど、僕はもう、だまされることは無い。

なぜなら、どんな詐欺でも見抜けるようになるという、素晴らしい商材を見つけたのだから。


それは数日前のこと。

もうだまされたくない、と思った僕は、詐欺に騙されない方法を調べようと思ったんだ。

Googleの検索窓に、「詐欺に騙されない方法」と打ち込んだ僕は、検索結果の4番目くらいに「それ」を見つけた。

「もうだまされたくない!というあなた。あなたがその気なら、どんな嘘でも見破れる方法を、完全無料でプレゼントするのですが...。」

まさに今の僕に語りかけているからのような一文だった。さすがに「そんなものあるわけないだろ!」と、少しは疑ったさ。でも、無料の一語がその疑いを払拭した。無料なら仮に嘘でもノーダメージなのだから。

軽い気持ちでクリックすると、長々とした広告文が現れた。

その広告によれば、嘘を見破る方法は非常に簡単だという。相手の目の下の筋肉がぴくっと動けば、それは嘘をついている証拠なのだとか。

そのほかにもいろいろと見破る方法はあるようだが、それは無料会員登録した人にだけプレゼントするらしい。

会員登録の作業はめんどくさかったけど、どうしても詐欺に騙されたくなかった僕は、メールアドレスや携帯番号、住所などを登録し、無料プレゼントを受け取ることにした。

受け取った無料プレゼントには、人が嘘をつくときの仕草から、どんな話をすれば相手がボロを出すかなど、事細かに書かれていた。これで無料だとは、信じられないほどの情報の量だ。

どれも信ぴょう性を感じられるものばかりだったので、さっそく実践することにした。その効果はてきめんで、実践し始めた日から今日にいたるまで、ことごとく嘘を見破ることができたのだ。

実家の母親を装った電話がかかってきたときは、むかし飼っていた犬の犬種を質問することで、ニセモノであることを見破った。相手は柴犬と答えたのだが、そもそも実家で犬を飼ったことは無かった。しどろもどろになった相手は、慌てふためいた様子でがちゃりと電話を切った。

家に最寄りの消防署職員を装った人が来たときは、火災報知機や消火器を売りつけようとしてきたのだが、その場で消防署に電話をしようとすると、相手は一目散に逃げて行った。

タイミングよくいろんな手口で詐欺に出くわしたので、嘘を見抜く方法を実践するにはちょうど良かった。

きっともう、これで詐欺にあうことは無いだろう。確信を得た僕に、例の会員制サイトからメールが送られてきた。

「さらにハイレベルな嘘を見抜く技術があります。それを身に着ければ、あなたは自分の身を守るだけでなく、詐欺の被害から大切な人を守れるようになることでしょう」

メールの一文を読んだ僕は、身に着けた技術を使って、いろんな人を助ける自分の姿を想像した。困った人を助けるヒーロー。感謝される自分。妄想が広がり、宙に浮いたような心地よさに包まれた僕は、迷うことなくその商材を購入することにした。

それだけのものであるにもかかわらず、金額は1万円だという。無料プレゼントの実践で、信ぴょう性があることは身に染みていた。だが、仮に嘘であっても、1万円なら損害は少ない。

商材を購入すると、これまで以上にさまざまな情報が手に入った。よし、これで世のため人のために活躍する、ヒーローになれるのだ。期待に胸を躍らせながら、さっそく実践していくことにした。


あれから1年。

僕はすっかり、白髪が増えていた。なぜかって?

それはそれは、たくさんの詐欺にあったからさ。だまし取られた金額は、総額1,000万円にも上った。

商材に書いてあった内容をすべて実践したけれど、いまいち効果が無かったんだ。

どんなに相手の顔を見つめても、目の下の筋肉はぴくりとも動かなかったし、どんなに言葉で揺さぶりをかけても、相手は巧みに嘘を貫き通してきた。

どの詐欺師にも、まったくかなわなかった。心の底から信用させる技術が、尋常ではなかった。

数日前に「新手の集団詐欺に注意」というネットニュースを見たのが、自分が詐欺にあっていると気付いたきっかけだ。新手の詐欺集団の手法とは、嘘を見抜く方法を無料提供する代わりに個人情報等を入手し、それをもとに計画的に会員に詐欺をしかけるという手口のものだった。

本当に詐欺を見抜くことができると確信させたところで、まったく効果のない有料の商材を販売し、引き続き詐欺を仕掛け、会員から搾取できるだけ搾取するのだという。明らかに、僕が今引っかかっている手法だった。

それを読んでからというもの、僕はもう、誰も信じられなくなった。勤めていた会社も辞めて、部屋に引きこもるようになった。

人を信じられない自分を嫌いになって、そのストレスから白髪になり、食は細くなり、寝込むようになった。

そんなある日、ふらふらとネットを眺めていると、不意に広告が目に入った。

「誰も信じられなくなったあなたへ。あなたさえその気なら、人を信じられるようになる方法を...」

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