見出し画像

ロンドン劇場研修レポ #1 〜ユニコーン・シアターが目指すもの

こんにちは。アートマネージャーのてらだです。

先月、ロンドン留学中のボランティアとカルチュラル・コネクターとしての仕事について書きました。ありがたいことに、こちらの記事はnote編集部のおすすめにも取り上げていただきました!

ロンドンでのその後の経験、ある劇場でのインターンシップについて、これから何回かにわたって書いていこうと思います。

留学のきっかけ

前回はっきりとは書かなかったのですが、そもそもなぜイギリスに留学しようと思ったのか?

私は、高校時代、とある公共劇場で「ユースパフォーマンス」というプログラムに参加したことがありました。10人の中高生が公募で集められ、3ヶ月間、プロのアーティストら(ダンサー、舞台美術家、俳優、音楽家)とのワークショップを経て、最後には有料のダンス公演を行うという企画でした。この話は長くなるので一旦割愛しますが、ここでの経験は間違いなく、私にとってのターニングポイントとなりました。

そこから「プロのアーティストではない人たちが演劇やダンスを経験する企画」、少し堅い言い方をすると、舞台芸術のアウトリーチ活動に興味を持ち、自身がその企画側に周りたいと思うようになりました。大学は、教育学部の中で芸術を専攻するコースに入り、アートマネジメントの基礎やワークショップのファシリテーションを学ぶうち、私が参加したプログラムを主催していた公共劇場の教育普及事業は、イギリス、主にロンドンの劇場を参考にしていることを知ります。

じゃあそれを現地に見に行こう、と思ったのが、最初のきっかけでした。

0621ユニコーン・シアターのエデュケーショナル・プログラム_ページ_08

私が参加したのは、現地の大学が提供している留学生向けのプログラムでした。10ヶ月間の間に、大学での語学研修と現地の学生に混じっての授業受講、さらに現地の企業や団体でのインターンシップを行うという、盛り沢山なプログラムでした。

ロンドンに来て、最初の数ヶ月は興味の赴くままに活動していましたが、いよいよ、実際に勤務するインターン先を探す時期になりました。ロンドンの劇場(特に助成金を得て運営しているほとんどの劇場)は、どこも教育普及事業に熱心に取り組んでいます。いくつかの興味のある劇場に応募をし、インターンとして採用してもらえたのが、ロンドン・ブリッジ駅から徒歩5分ほどの場所に位置する、ユニコーン・シアターでした。


ユニコーン・シアターについて

ユニコーン・シアターは、児童演劇専門の劇場です。生後6か月から18歳までの観客のための舞台芸術作品の創作・公演を行っており、稽古、舞台美術や衣装の製作、そして公演までが全て同一の建物内で行われます。年間20のプログラムに、9万人の子どもたちとその保護者や介助者が観劇に訪れています。また、学校への出張ワークショップや、ドラマ教師の支援などのエデュケーション・プログラムを精力的に行っています。

0621ユニコーン・シアターのエデュケーショナル・プログラム_ページ_09

創設の歴史については、新国立劇場のHPでも紹介されています。

ユニコーンの創設は1947年12月、もともと国内の劇場や学校を訪れることを目的とした小さな巡業劇団だったが、質の面で妥協することなく、子どもたちに貴重な(そして多くの場合生まれて初めての)演劇体験をさせることに心血を注ぐ革新的存在で、高い評価を得ていた。創設者のキャリル・ジェンナーは、英国中の子どもたちすべてが、楽しく有益で日々の暮らしに密接した演劇を観られようになること、子どもたちを未来の観客としてではなく、れっきとした観客のひとりとして扱うことを描いていた。


現在の劇場建築は、劇場を財政危機から立て直した芸術監督トニー・グラハム在任中の2015年、ロンドン南部のテムズ川沿い、タワー・ブリッジ近郊に建設されました。建物内には、340席の主劇場(Weston Theatre)と100席のスタジオ型小劇場(Clore Theatre)に加え、稽古場が2つ、衣装や小道具を製作・保管できるアトリエや倉庫が備えられています。

360°ツアーで実際の劇場内を覗いてみましょう!


未来の観客として教育するのではなく、一人前の観客として扱う

「児童演劇」と聞くと、教育的で、ダサくて、大人が見ても(多くの場合、子どもが見ても)面白くないというイメージを持つかもしれません。創設者のキャリル・ジェナーは、劇場の方針として、このような言葉を残しています。そして、これは現在の劇場運営にも引き継がれています。

0621ユニコーン・シアターのエデュケーショナル・プログラム_ページ_18

「児童演劇」「教育普及」といった言葉が出てくる時、それはなんとなく、マーケティング的な意味合いを感じることがあります。つまり、(意地悪な言い方をすれば)子どもたちに将来劇場に足を運んでもらうために、早いうちから演劇の「良さ」を刷り込んでおく、というような。それは、いまを生きる子どもたちのための作品ではなく、未来の観客のための演劇です。

ユニコーンでは、今を生きる子どもたちが、まさにその時に楽しめる作品を作ることにエネルギーを使うことを方針として掲げています。それは、「子どもたちに適した」幼稚な作品を作るという意味ではなく、大人が見ても圧倒されるようなクオリティーを追求することです。

私が思うに、ユニコーンで上演される作品は、誰にでも分かりやすいというよりは、一人前の観客としての子どもたちの想像力を信頼しています。実際、大人が見て「これを子どもたちは楽しめるのか?」と思うような、少し複雑なシーンでも、客席の子どもたちは集中し、時に大いに反応します。上演中の客席を見ていると、子どもたちのために「分かりやすく」する必要はないし、むしろ大人よりも圧倒的に想像力豊かな彼らを甘く見てはいけない、ということに気づかされるのです。


今回はここまで。そもそもの目的だった、劇場のアウトリーチの様子やインターンとしての経験は、また次回以降、書いていきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?