コロナ禍をまとめてみる5|外出すること

自粛、自粛、自粛。毎日テレビも新聞もツイッターも自粛の二文字であふれている。たしかにウイルスが拡がらないようにするには自粛が求められるのだろう(でも政府や自治体がそれを要請するんだったらちゃんと現金で補償出してくれよな)。レジャー施設だけでなく多くの店も閉まり、ショッピングすらできなくなったため、街から人の姿が消えた(らしい)。スーパーでの買い物も数日に一回にしろ、なんて要請も出ている。

自粛、そして引きこもり生活

このような要請がなされたのは最近のことではない。だいぶ前からのことだ。あまり細かく覚えていないが、少なくとも進学のために引越しをした3月末にはすでにこんな感じだった。それゆえに、前にも書いたが家で引きこもるような生活をしていたのである。

スーパーへ行く以外は引きこもるばかりの生活なので新しい友達もできず、もちろん誘い合って何処かへ行くなんてこともない。他の人がどう過ごしているのかもよくわからないのでとにかくなるべく家の中にいることにしたのだ(まあ、その方が安全なのは間違いないだろう)。だが、実家に帰ってきてからは少し勝手が違った。というのも、父も母も在宅ワークをするのではなく毎日仕事に出かけるからである。毎日のようにドアから外へ出て行くのを目にするのである。一人暮らしの時は「出たくても今は出るべきではないよな」などと思っていたが、毎日家族が外へ行くのを見ていると(仕事に行くと知ってはいるが、そしてリスクがある行為だと知ってはいるが)、どうも羨ましく思えてきたのである。

もちろん、だからと言って遊びに行くことはしなかった。こんな時期に友達を誘うのも無責任な話だし、だいたい遊ぶ場所も全部休業中だろう。ただ、散歩くらいならいいだろう、と思えてきた。いや、散歩くらいしていいのは知っている。健康のため適度な運動は必要だろうし、人が密集しているところさえ避ければしてもいいはずだ。一人暮らしの時にもやろうと思えばできたことなのだが、どうも気が進まなかった。どうも、非日常の空気に忖度してしまっていた。同調圧力だ。人と接触しなくても外に出ただけで通報されそうな空気が町中に漂っているのである。なんとも怖い。今は非日常なのだ。そこに日常の習慣など持ち込むな。とでも言われそうな空気だ。気持ちが悪い。だが、後から変に絡まれるのも嫌だと思ってひたすら引きこもり生活に徹するようにしていた。

だが、毎日家族が外へ出て行くのを見て、家の外へ出て空気を吸うことくらいしてもいいだろうと思えるようになった。やはり身近な人の行動は、自分の心のハードルを下げてくれる(それは良い側面も悪い側面もあるだろう)。おととい(2020年4月28日)、私はものすごく久しぶりの散歩をすることにした。30〜40分かけて、久しぶりに自分の小学校の学区をぐるっと回ってみた。

田んぼと台南

外に出るってのはやはり良いもんだ。久々に外の空気が吸える。最近まで寒かったが、その日は暖かかった。お散歩日和である。うちの近くにはまだ田んぼが残っている。田んぼの脇を歩きながら、ふと台湾の景色を思い出した。台湾で一番仲良くしている友達の実家が台南にある。いつも台北から鈍行列車に乗って台南に向かう。駅を1つ、また1つと過ぎる度に窓の外の景色が緑色に染まる。そうだ、2月に台湾に行った時もこの景色を見たっけ。車掌が切符を確認しにきて「なんだ台北からわざわざ鈍行に乗ってきたのか」なんて言われて驚かれたっけな。去年の春節の時期にも台南に行った。2月とはいえ、台南は日によってはとても暖かい。夕方になっても心地いい風が吹いている。そう、散歩にはぴったりの季節なのだ。たしかあの時は友達の阿嬤(アマァ:おばあちゃん)の家に泊まって、友達と阿嬤の家の老犬小黑(シャオヘイ:日本語ならクロといったところか)を連れて散歩に行ったんだっけ。あの時も田んぼの脇を歩いた。月が田んぼの水に反射して綺麗だった気がする。小黑が電信柱を見つける度におしっこをするから友達とクスクス笑ったんだよな。散歩しながら、「ここの家は〇〇ってレストランの老闆(ラオバン:オーナー)でね、金持ちなんだ」とか色々教えてもらった。風呂上がりに小一時間歩いて体が冷えてきて、家に戻った。いや、寒かったからじゃなくって友達が見たい番組があるとか言ったからだっけ?

実家の近所の田んぼを見ながら、ぼーっと台南の思い出に浸った。小黑は元気だろうか。阿嬤も元気だろうか。次台南に行けるのは一体いつになるのだろうか。こうして田んぼを見にくることすらはばかられる状況だ。海外に行ける日が来るのはだいぶ先に違いない。

まあ、海外にしばらく行けないことは覚悟しているさ。ウイルスの出入りを防ぐためだ、仕方のないことである。だが、それは同時に自分の研究にも大きな影響が出ることを意味しているわけで、若干の焦りのようなものもすでにある。

ただ、やはり思うのは海外に行けないとしても、散歩くらい気軽に行ける空気が欲しい。私がデリケートになりすぎていたのだろうか。ずっと引きこもっていたからか。そうなのかもしれないが、なんだか最近の日本社会には外を出歩いているだけで通報されそうな空気があるというのも間違いではないような気がする。なんだか極端な世の中だ。散歩をしても、誰ともすれ違わなかった。みんな家にいるのかな。

散歩くらいすればいいのに。

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