【短編小説】私は皆さんに共感します。人生に意味なんかない。
私は皆さんに共感します。人生に意味なんかない。
お中元には意味をください。
あいつが言いました、言葉あれ。後を継いでクラスの落ちこぼれが「意味」とかいう紅生姜を捏造したんです(それはただのラディッシュでした……)。
炬燵すらまだ片付いてない茶の間で私は仰向いて、口にためた淡黄ゲロでうがいしてるところです。
花は性器。つまりは、ちんこまんこむき出し。(へえ、そりゃいいや)
多少は羞恥心を持ってくれないと困るよね。人間を見てごらん。貞操。淫らな影は、慎ましやかな陰部に射す。
花を食べ、色を抜き、蜜を採る。
産業活動に擬態した花にまつわるすべての変態行為を放置することの欺瞞やいかに。我々は無意識に花を、草木を、陵辱している。(自覚症状がないんです。おそろしい病)
ここに私は、有史以前に遡る植物の被虐の歴史を告発する決意を、固めつつある。声なきものの代弁者となる。(だけど所詮は腹話術だよ。つまり独り言さ)
ちんこは秋風に揺られまるで心地よさそうなつくし。まんこには風が吹き込み洞穴のような音をたてる楽器。
とし子「よしなさいよ、そんな下品な表現ばっかり。聞いてらんない」
ぼく「こういうのがみんな好きなんだ。べつにぼくの趣味じゃないぞ。需要に合わせている」
犬「わんわん」
とし子「見損なった。あんたは他者の欲望を満たしてあげるためだけの工場なのね? そんなの芸術家じゃない、俗情との結託よ」
ぼく「ぼくがぼくを芸術家と呼ぶ限りにおいて、ぼくが芸術家であるという事実を揺るがすことは決してできない。ぼくは問題なく一人の芸術家である」
金魚「……」(おい、金魚を無理に喋らせようとするなよ。そういうのを暴力というんだ。何人も、魚の沈黙を破ることはできない)
とし子「芸術とは伝統の維持であると同時に伝統の破壊である。貴殿の表現は伝統への幼児的な反抗であり、思春期の子供の親への反抗と変わるところがない。すなわち表現における深み、独創性、あるいは覚悟を欠いている」
ぼく「そのような見解に惹かれないわけではないがしかし、聖典のようにニーチェに依拠し続ける君の態度こそ思考の放棄なのでは……」
とし子「ニーチェ万歳! ニーチェ万歳!」
冷蔵庫のにくじゃが「そろそろ梅雨ね……」
ぼくは免許の更新のために車に乗り込んだ。免許センターまで真面目に運転するなんて明白に愚かなので、下半身を裸にしてみた。スースーして心地良いし、陰部が公衆に晒されるスリルもあって久しぶりに高揚した。日常を豊かにするアイデアマンがぼく。退屈な日常に色を足す絵描きがぼく。
ぼくは信号待ちのたび、窓ごしに若い女を視姦した。ふと目が合うとき(お前は下半身むき出しの男に性的な目で見られていることに気づいていない鈍感で人生経験の少ない純粋な雌なのだ)と思い、当然勃起した。
ぼくが生尻を運転席に載せていることに気づいた者はいない。誰もぼくに興味なんて無いからだ。
→そんなことばかりしてないで、ちゃんと働きなさい。
なな子「そんなことばかりしてないで、ちゃんと働きなさい」
とし子「あんた、そんなふうにリアリストを気取ってるけど、気取りに見合う常識があんたには備わってるわけ?」
なな子「当然よ。あんた、あたしの何を知ってんのよ」
とし子「知らないわよ。だから説明してみなさいって言ってんの。あんたに他人を注意できるだけの現実感覚があるかどうか、あたしがチェックしてあげるから」
なな子「わかった。ついてきなさい」
とし子「なんでついていかなきゃなんないのよ」
なな子「いいからついてきなさいよ馬鹿」
とし子「馬鹿はあんたでしょ!?」
なな子ととし子、相にらみながら、現実探しに出立。海を渡り山を越え、紫鯨に命乞い白猿に業務連絡、たまの絶景に自身の顔面をねじり込んだセルフィーをインスタに投稿、中学生のころの異性の同級生からもらった「いいね」をきっかけにDMで繋がった矢先、性急な精神的接吻を交わし今度の週末ランチでもどう? 中目黒に安くて美味しいお店があるんだけど? 「うーん、実はいま現実を探しに出かけてるんだ?」え、現実? そんな物を探して何になるの? 「そりゃそうなんだけど、引っ込みがつかなくなっちゃって。」 今からでも引っ込みなよ。「え?」だから、今からでも引っ込めばいいじゃない。そして、一緒にランチに行こう? そして然るべき後、肉体的接吻を交わそう?
かくしてとし子離脱。なな子は一人、現実を目指して荒野を征く。
なな子「だから、いつまで子供じみたことを話題にするつもり? ああ、わかった。書くことないからそうやって下ネタに逃げてんだ。あんた才能ないのよ」
神様「早く話を進めなさい。早く話を進めなさい」
仏「ちんこの話を続けろ」
釈迦「一旦、まんこの話でもいいよ」
ぼく「そんなに求められたのはじめて。うーん、あ、そうだ。もっと高尚なことを書いてみようかな。生まれ育った土地の歴史のこととか、恋愛のうまくいかなさとか、ジェンダーの問題とか、あ、先祖の話とかどうだろう。おじいちゃんと父親と、そしてぼくの話。うん、そういうことを書けばいい感じがする。文学な気がする。やったぜ! ぼくは偉い大作家先生になれる。とても尊敬されたい。僕の夢、ぼくの目標、ぼく、ぼく、ぼく!」
アナル「解釈次第では私も立派な性器……」
とし子「この4種チーズのカルボナーラ美味しいねえー!!」
雄「パルメジャーノ・レッジャーノが効いてるぜ」
とし子「幸せ!幸せ!幸せ!」
国破れて山河あり、国春にして草木深し。
とし子「大丈夫、徒歩で帰るから」
雄「さよなら」
地の底のみみず「あーあ、つまんね」
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