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「春の熊くらい好きだよ」って言われてみたい #3 ノルウェイの森

ブッククラブは台風で日程変更となり、私の行かれないタイミングで開催。せっかく読み返したので、ひとりで読書感想文を書いてみます。


この小説の中の、村上春樹さんの分身的な存在は、ワタナベ君です。
ワタナベ君のことも、例によって大好きなのでしょう…?というご期待に応えたいのですが、そうシンプルにはいかなくてですね、申し訳ありません。
ワタナベ君は、まだ若くて、繊細過ぎて、うっかり好きになってしまうには、線が細すぎる… 私は、強いひとが好きなんです。強がっているひとというか。背中を追いかけていきたくなるような、この人のために何かしたいと思わせてくれるようなひとが好きなんです。
ワタナベ君は、年齢を重ねて、時間をかけて少しずつ知っていけばいいことを、こんなに残酷なかたちで、まるで嵐に巻き込まれるようにして経験してしまいます。
結末を知っているくせに、ワタナベ君、どうか、無事に着地してくださいと、祈るような気持ちで、見守るような気持ちで読みました。

以前は、そんな理由で、永沢さんを好きだなと思って読んでいました。でも今回読み返してみると、他人を犠牲にして何とか自分のシステムを守ろうとしている、かわいそうな人にしか見えない。ある意味で自分中心的に楽をしているような。
ハツミさんとのレストランでの就職祝いの場面など、ため息がでてしまいました。あれは永沢さんの若さ、なのかもしれません。でも、ハツミさんを手がかりに、持っている力を使って、違うシステム構築を試してみてほしかった。そうすることで、彼自身も楽になれる気がします。

ワタナベ君は、緑さん、レイコさん、ふたりの女性に守られて、現実の世界に戻ろうとします。
ワタナベ君は、緑さんとなら、現実的な手ざわりある関係が築けるような予感はします。自分が俗であること、庶民性を自覚していないのか隠そうとしない緑さんなら、ワタナベ君のことをぎゅっとつかまえていられそうです。
緑さんとの関係の中で、ワタナベ君は、一度も自分を愛してくれなかった直子さんとの関係をどんなふうに理解できるようになるでしょうか。「公正」などという言葉で切りつけられたことは、ずっと悲しい記憶のままかもしれないですね。


冒頭出てくる大人のワタナベ君が、どんなふうに生きているのか、私はそれが知りたい。彼なりの強さを手に入れてくれていることを望みたい。

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