見出し画像

30. 杪夏 生きとし生けるもの

相も変わらず、お日様はコンクリートを焦がしている。


でも、まあ、昨日よりもマシだよな。


横たわるベッド。
外の蝉時雨が 心の空白で振動する。


まだなかば。


蝉の声に合わせて無意識に貧乏ゆすりをする私。


冷たい殻を脱ぎ捨てて


白く立ちのぼる煙は、晴天にとける。


残るのは灰と生きるものたちの思い。


もうここにはいない。


白雲はどっしりと浮かんでいて


その雲影にふわふわと地に足つかない私が佇む。


儚いな。ちっぽけだな。人は。



写真を抱き、車に揺られる。


流れていく景色は、わたしたちの思い出が焼きついたフィルムのよう。


今も重ね重ねの記憶を紡ぐ。


踏切の音はボーッとした私を急き立て、はしる赤い鈍行は私の血潮。


生きているんだ。ここに。


泣くだけ泣いた。今日は私の泣く日じゃあない。


凛としていけ。


じゃあな。またな。






西の空。うろこ雲に緋が走る。


気だるい杪夏も解け、街はそろそろ秋を迎える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?