立地論から考えるサッカー・クラブの戦略

 サッカークラブの集客において、ウェブからの集客、スタジアムからの集客について、立地論を利用して、どのようにしてクラブの活性化が考えられるかを論じてみます。

 ウェブでのマーケティングは担当者が変わった場合の引き継ぎが難しく、ベテランの勘が通じにくいこともあるともいわれています。

 そもそもマーケティングは多くの人に行っても、効果に大きな開きが現れることがあるといわれます。5万人の人にマーケティングして500人が来場するか、5千人が来場するか、その開きによってのちに使える費用(予算)は様々に変化します。

 だから効果をより高めるために、立地、来てくれる人がいる場所にマーケティングを行うことが必要であると考えられます。

 ではそもそも立地論とはなんなのでしょうか。 立地論とは、個人、集団、企業などが行為を行う「場所や位置(つまり立地)」および「それら(立地)を選択する行為とプロセス」に関する「理論、歴史」を用いて行う研究や政策のことです。

 例えばサッカークラブという企業が、ウェブサイトによるマーケティング、実際の広告を行っても、行為した対象が立地やその条件にマッチせず、人々がスタジアムへ来てくれないことがあります。

 5万人のスタジアムを観客で埋めるのには、極論では5万人に声をかけ5万人が100%来てくれればマーケティングは終わります。広告においては、一つの方法として広告に触れる対象(量)を増やす手法が取られることは多いですが、コンバージョン?(成果?)が高い、つまり広告の効果が高いと、来てくれるパーセンテージが上がり来客が増加することがあるのです。

 それには広告を提供する対象、もしくは立地の条件を考える必要があります。広告に対して見た人の1%が来てくれるか、3%が来てくれるか、3倍の効果の違いがあることになります。

 では観客が実際にスタジアムに来てくれる立地や条件とはどのようなものなのでしょうか。またウェブサイトから、スタジアムに来場してくれる客にアプローチするのには、ウェブサイトの立地をどのように調査して、どのようなアプローチをとるべきなのでしょうか。

 そもそも事業を行うときには、ウェブ店舗・事業においても、実際の店舗(サッカーの場合はスタジアム)においても、はじめに事業の対象となる立地の調査、商圏の調査というものを行うことが必要であるとされます。ウェブサイトやスタジアムなどの立地について商圏調査を行い、それに従ってマーケティングを実施することが事前に必要なのです。

 商圏調査とは、自チームの本拠地に集客できる距離的範囲(=商圏)を様々な要素から定め、その商圏の人口や、ターゲット、土地の特性を把握し、その後の経営戦略に役立てるための調査であるとされます。 東京Vの場合、狭くは味の素スタジアムに通える周辺の範囲、もしくは稲城市などのヴェルディの練習場の周辺が本拠地であるという考えから、東京都、神奈川県を中心とした広範囲にも商圏を考えることができます。

 また商圏の立地の調査においては、マーケティングを行う対象者の行動への競合相手の影響などの存在の要素も考えなければなりません。 商圏にはその中に「バリア」として来客を阻む要因が存在することがあるのです。交通網の未整備であったり、顧客の嗜好であったり、競合店の存在であったりです。

 東京Vというクラブを考えた場合、スタジアムに来る観客を阻む要因としては、他の娯楽・クラブや居住地の条件など、さまざまな要因が考えられると思われます。それを乗り越えて、このチーム(東京V)を見に来たいと思わせる戦略が必要であるのです。

 では観客をスタジアムに呼ぶためには、どのようなウェブ上・現実店舗(スタジアム)の要素に注目して、施策を実施すべきなのでしょうか。

 立地論について
 https://kotobank.jp/word/立地論-149033

 商圏調査
 https://www.research-media.net/contents/wp/glossary/shoukenchousa/

 商圏マーケティング
 https://www.mapmarketing.co.jp/gis_guide/katsuyo.html

 商圏調査のやり方・方法
 https://infonista.jp/c/column/529/

 まずそれ以前に、歴史的な立地論と、サッカークラブの立地論をすり合わせてみましょう。

 歴史上立地論に最初に取り組んだ人物としては、チューネンの立地論(『孤立国』という本で論じられた)があります。

 チューネンはドイツにおける農業の発展について考察を行いました。そして農業の作物の栽培方式や農地の分布が、都市からの距離のみに依存するというモデルを作ったのです。農業における立地を検討し、チューネン圏という概念を考案しました。

 チューネンの考え方によると、同心円状の形をつくって、対象都市からの距離により、顧客の行動が変わるとされます。サッカーなら例えばスタジアムを中心に同心円の近くの人は来やすく、同心円が遠いほどスタジアムに来にくくなる。そのような立地の中心を囲む同心円状の変化が、チューネンの理論なら、サッカー・ビジネスでも考えられるでしょう。

 一方、それから時間が進んで、同じドイツのアルフレッド・ウェバーという人が三角形・集積という理論を考えました。

 工業生産活動が営まれる場所、またはそのような場所の選択を行うことを工業立地といいます。またこの場所の選択に関する理論を工業立地論といいます。そしてこの工業が繁栄する土地、工業の「集積地」の理論をウェバーは考察したのです。

 工業を行う場合において、原材料が安くで手に入る場所、生産がしやすい場所、顧客からも輸送が近い地点、この3つの条件、三角形が満たされる場所に、工業の生産拠点が集中します、これが「集積」という概念になります。ウェブ上ではAmazonや楽天のようなポータル・サイトがこのような条件に当てはまるかもしれません。

 東京Vとしては、情報が届きやすく、情報に接触する機会が多く、味の素スタジアムに行きやすい地点、またウェブ上の拠点に集積を作り、そこを核として影響力を高める、様々ないいものを集積していく手法が考えられます。ただこの時点での「集積」という考え方はブランド戦略や商品の質ではなく、生産経費の圧縮面からの集積を考えているとされます。しかし「集積地」「拠点」「接点」という考え方は重要かもしれません。

 さてこれらの理論を発展させたものに、クリスタラーなどの中心地理論があります。これは供給される財の到達範囲・中心地の規模 (階層性) によって、幾何的・数学的に説明できる空間構造(立地)が生まれることを説明しています。(地域の構造が数学など数字で説明できるということです)

 これは中心地を商圏が囲むことを数学的に論じたもので、各拠点のパワーバランスの変化などを論じたものです。

 一方、アメリカのポーターは競争戦略論(ダイヤモンド・モデルとクラスターなど)を考え出し、競合分析、市場のポテンシャルの分析に基づいて「コスト・リーダーシップ」「差別化」「集中戦略」などの戦略を立てることを論じました。

 これらについては十分に論じれませんが、その中のダイヤモンド・モデルとは、「生産」、「需要」、「関連産業・支援産業」、「企業戦略・構造・競合関係」の4つの条件が組み合わさってイノベーションが起こることを指します。 これらの4つの条件は、集積地において集まった企業集団の中で「クラスター」として磨きあわれてイノベーションを生み出し、ブレイクスルーを呼びます。

 東京Vとしては4つの条件のうち、生産と需要をよく読んで、企業戦略・構造・競合を考え、そして関連産業や支援産業のメリットを考慮しながら、新しいイノベーションを産むことが重要であるでしょう。

 関東にはサッカー・クラブが数多くあります。これはクラスターとも考えられ、そのクラスターの中で、どのような戦略を取るかが問われていると考えられます。 そしてこれらの立地論を踏まえた、戦略が効果的であると考えられるのです。

 ※ これらの理論は難易度の高い理論です、読み飛ばしていただいた方がいいかもしれません。

 チューネンの『孤立国』・農業立地論の理論
 https://www.weblio.jp/wkpja/content/農業立地論_農業立地論の概要
 https://kotobank.jp/word/チューネン-97549

 アルフレッド・ウェーバーの工業立地論
 https://geographers.info/2020/01/10/weber/
 https://www.weblio.jp/wkpja/content/立地論_立地論の概要
 https://kotobank.jp/word/産業立地論-1326375

 クリスタラーの中心地理論
 https://www.weblio.jp/wkpja/content/中心地理論_中心地理論の概要
 https://kotobank.jp/word/中心地理論-97312

 ポーターの立地論(クラスター)
 https://core.ac.uk/download/pdf/70371372.pdf
 https://www.nsspirt-cashf2.com/ba/diamond-model/

 ポーターの競争論
 https://blog.leapt.co.jp/what-is-michael-porters-strategy-of-competition

 他に立地として注目できる点には交通発生源というものがあります。

 交通発生源はTGとも略されます。トラフィック・ジェネレーションの略になります。交通発生源とは、人々がそこに集中し、そこを中心に広がっていく場所であり、あたかもそこから人が生まれるように見える場所といわれます。交通発生源は人を集める求心力となるため、ウェブでも、実際のスタジアムへの呼び込みの戦略でも有効な手段となるでしょう。

 立地のいい場所、人が集積し、クラスター化(周りの企業・支援とマッチしてイノベーションが生まれやすい状態)した場所が交通発生源とも言えるでしょうか。このような交通発生源、クラブのファンになってくれやすい層、場所、サイトを見つけることが、ファン層を拡大する有効な手段となるはずです。

 その交通発生源を確認し、そこから動線を読むか、もしくは導線を作ることが必要です。なお「動線」とはそこからの人の動くルートであり、「導線」とはそこから人を誘導するルートのことです。

 ウェブの立地としての交通発生源はトップページであることもあります。多くの企業がトップページを飾り、綺麗に装飾し、イメージを上げようとしています。 しかし検索やリンクの影響などで、サッカー・クラブのサイトのランディング・ページになるページはトップページとは別のこともあります。

 その場合はデーターを分析して、実際に交通や接点が生じている場所で、観客へのアプローチを行うべきなのです。 ニュース・リリースであったり、試合の会見であったり、検索の順位が高いページが多く閲覧される場合があります。

 これらのうち交通発生源となっているページ、閲覧者がグッズを購読す確率の高いページ、チケットサイトへ移動する確率の高いページなどを選別し、そこを強化するべきではないでしょうか。ウェブの専門家では、これらのファンになりやすいページにリコメンド(関連したページをおすすめする機能)のリンクを張ることを勧めているようです。

 またウェブでの有効な交通発生源としてSNS、広報の情報などが考えられます。Twitterやinstagramのフォロワーは有効な交通発生源です。 これらのページは、誰かが見に来たら、あとから顧客になる可能性が高く、特に何度も見にくる顧客はファンになりやすいのです。例えばインタビューや、YouTubeのページ、連載コラムなどのページを見た顧客が、フォロー、チャンネル登録、リンクに飛んでくれれば、それは交通発生源となることが多いです。

 これらの交通発生源は、総合型クラブとしての東京Vの他のクラブ・チーム(野球、ホッケーなど)のページやTwitterアカウントなどでも有効な交通発生源として起こりうるでしょう。これらの交通発生源を有効に相互にリンクさせることが大事でしょう。

 交通発生源をリンクさせるためには、実際の都市(東京・神奈川という地域全体と捉えてもいい)や、スタジアムでは、ケビン・リンチの都市イメージ論のように、さまざまな要素を組み合わせ、交通発生源を増幅させる戦略も考えられます。

 リンチの都市イメージ論とは、各都市の存在物をエレメント(要素)とし、それを分類し、都市にアイデンティティや意味を与え、イメージを作る仕掛けのことです。これは描く人の各イメージによって仕掛けが異なり、交通発生源を増加させたり、情報の接点を増やすことができる可能性があります。詳述はしませんが、各エレメントへの導線を有効に構成することで、各エレメントの持つ情報を拡大することもできるのではないでしょうか。

 このようにウェブでも、リアルでも、立地論を利用したり、交通発生源・都市のイメージ論から導線を考えて、立地からの戦略で顧客を創出することができるのではないでしょうか。ウェブでも、リアルでも、今後このような立地の分析を踏まえた上でのサッカー・クラブの運営が重要になっていくのではないかと思います。

 交通発生源
 https://shopcounter.jp/magazine/knowhow/about-trafic-generator

 交通発生源とマーケティング
 https://fukutokusha.jp/store_development/tg/

 リンチの都市論
 https://nomad-with-no-direction.blogspot.com/2022/01/The-image-of-the-city.html
 https://kotobank.jp/word/都市のイメージ-154729

気軽に行きます、がんばります。