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第五十三話 その出会いは突然に

その出会いは突然訪れた。

ジャングルを一人歩いていると、後ろから複数の気配がする。
振り返ると、そこには何とオラン・アスリ達が三人達が居るではないか!
三人で何か話し、そして近寄ってくる。

それぞれ手には槍、吹き矢、ナタのような武器(というか、狩猟の道具でしょうか)を持っている。
ジャングルの中、腰布以外は裸同然、そして裸足で歩いている。
 
大丈夫か?これは?こっちは丸腰同様な上に複数対一人の出会い。
初めてのコンタクトが実現したのは良いが、どうしたら良いのだろうか??
僕は躊躇する。何か野生動物と出会った時のような感覚。
 
取り敢えず、先ずは笑顔。そう、笑顔だ。
敵意が無いという事を示さねばならない。
 
彼らのうちの一人も笑顔。他の二人は不思議そうな顔でこちらを見ている。
 
うん、特に敵対心とか警戒心は無さそうだ。
(そうだ!)
 
僕はバッグの中にある、ヒル避けようのタバコの事を思い出す。
確かジャングルで暮らす人間はタバコが好きだと聞く。
 
早速バッグから「マルボロ」を取り出す。
彼らの表情が変化する。
 
(お、これは嫌いではないな)
 
僕は彼らそれぞれにマルボロを渡し、火をつける。
これで彼らの表情も和らいだ。
 
これで心の距離も少し縮まった待ったと感じた僕は、出会った時から彼らの持ち物に興味を示していたので、ひとつひとつの用途などを聞いてみる。
 
「これは何?何に使うやつ?」(日本語で)
 
これはこうして獲物を取るんだと、道具を使い、仕草で教えてくれる。
 
(写真を撮りたい)
そんな衝動に駆られるが、写真が原因でのトラブルは怖い。僕はその衝動を抑え、目と記憶に焼き付ける事に。
 
お互いに通じているのか、通じていないのか分らない会話をなんとか成り立たせながら、暫しの時を過ごす。
そしてもう一度彼らにタバコを渡し、別れる事に。
 
彼らはまた森の奥へと去っていった。最後はみんな笑顔で。
 
「あっ…!」
彼らの去った後、僕はハッとする。
 
そうだ。彼らについて行けば、彼らの家に行けたかもしれない。
しかし気がついた時はもう遅く、彼らの姿は見えませんでした。

それにしても、突然の出会いには驚いた。
観光客相手の民族衣装を着た少数民族は会った事はあっても、実際に狩りをしてジャングルで暮らす本物のドライブ(部族)に会う機会など、考えた事も無かったので。

 何はともあれ、僕は再びジャングルの中、一人歩き始めたのでした。
どこまでも続く、ジャングル。
道無き道。
未知なる道。
 
そしてまた暫く歩いた頃、突然、視界が開け、日が差し込む場所へと出る。
そう、遂にオラン・アスリの家に到着したのでした!
途中、簡易的に建てられたような、枝を組み、葉っぱで屋根を葺いたような家はあったが、これは違う。
かなり本格的に、木で立てられた高床式。その数は結構あり、完全な「集落」でした。
 
しかしやはり人の気配がない。どうも、ここはもう使われてはいない模様。もしくは、複数の家があって、転々と移動してるのかもしれない。
水汲み用のバケツでしょうか、そんな物と子供のおもちゃなのか木彫りの車と動物らしき物が、無造作に集落の真ん中に置いてある。
 
しかし一つの家の中から何やら気配が感じられる。
何か居るぞ。
 
僕はその気配を辿って、恐る恐る、その家に近づく。
 
すると中から出てきたのは、大きな猫。
筋肉質で、普通の猫よりも一回り大きい。
いや、これで本当に猫か??
 
「ニャア」
そいつが鳴く。
 
やっぱり、猫なのか??
更に奥からもう一匹が。
 
「なんだ。こいつは!?」
 
僕は奥から出てきたもう一匹の猫を見て、もっと驚く。
なんとその身体は、更に一回り大きく、そして更に筋肉質。
肩の筋肉は盛り上がり、足などは他の大型の猫科のそれの様。
猫もジャングルでは進化するのでしょうか?それとも山猫なの?
どうやら人には馴れているみたいで、擦り寄ってくる。
この辺りはやはりネコだな。喉を撫でると、ゴロゴロ言ってご機嫌のよう。
 
僕はこの集落と猫達の写真を撮り、ここを後にする。
何はともあれ、本物のオラン・アスリと出会えた事は実にラッキーでした。
 
さて、ブンブンに戻ると、小屋の中から話し声が聞こてくる。
誰か来ているのだろうか?

僕は梯子のような階段を登り、ビルの三階くらいの高さにある小屋へと入る。
すると中には白人達が五人、真ん中のテーブルに集まり騒いでいる。
昨日のオージーのカップルが居たら激怒しそうな騒がしさだ。

浅野さんの姿は見当たらない。どうやらまた出掛けているようだ。
そのうちの一人が僕に気づく。
 
「おう!お前もここに泊まるのか?宜しくな!」
 
「うん、そうだよ。君らも?」
 
「そうだ!お前はどこから来た?俺達はシドニーからだ!」
 
「東京だよ。オーストラリアからなんだ?」
 
 テンションが高く、面白い連中。
退屈する事は無さそうだ。
 
(今日は動物は見れないな)僕は彼らのテンションの高さに、今日の動物観察を早々断念する。
こんなに大騒ぎでは、動物も寄り付かない。きっと浅野さんも、この騒がしさに嫌気をさして逃げ出してしまったに違いない。
 
「見ろよ、これ!どうだ?!」
僕に最初に声を掛けてきたそのオージーのルーカスが、自分の手にヒルを何匹か乗せ、血を吸わせている。
 
「すげえ!!おい、見ろよ?!コイツら、どんどんデカくなるぜ!!」
 
「あはは!狂ってるなー!笑」
腹が痛い。まさかワザワザ、ヒルたちに自分の血を吸わせるなんて。
僕はそのオージー達の馬鹿騒ぎに付き合う。
 
夕暮れ前、浅野さんが戻ってくる。
やはりそのオージー達のテンションについて行けずに、外に出ていたとの事。
 
僕と浅野さんは、夕飯の支度の為、ブンブンの下で火を焚く。
オージー達は缶詰で済ませるようだ。
 
夕飯も済、僕らは皆でテーブルを囲み、ローソクに明かりを灯し、談話をする事に。
 
彼らはシドニーからバンコクまで飛び、マレーシアに南下。そしてこれからインドネシアの島々を渡り、オーストラリアまで戻る旅だと話す。
 
彼らオージーは彼らの国のガイドブック「ロンリープラネット(*世界的に有名なガイドブック)」からも分るように、子供の頃から一度は、どこかに旅に出るという民族(たぶん)。世界の到るところで出会う機会は多いのです。
 
「じゃあ、同じルートだし、またどこかで会うかもしれない」
 
そんな話をしをしつつ、夜は更けていく。ジャングルの中、響き渡る僕達の笑い声。
きっと動物にも、このおかしな人間達の声は聞こえているのだろう。
 
今夜、動物観察を諦めた僕は、皆と同じくらいに寝る事にする。
蚊を嫌い、簡易式の蚊帳を携帯していた僕は、その中に入り込む。
 
「それ私に下さいよ。これじゃあ、今日も蚊の餌食ですよ。」
なんでも人の物をうらやましがる、浅野さん。
 
「残念ですがこれは一人用で、自分のですから。浅野さんは虫除けスプレーまみれになって寝て下さい。」
 
「冷たいな~。」
 
 
僕らが寝に入り静まると、辺りは動物の声と虫の声が鳴り響く。昨日よりもすごい大音響で。
どこかでパイプオルガンのような音色が響いている。
これは何の音なのだろう?すごく幻想的な音。
動物がこんな、金属音の様な音を出せるのだろうか?
 
そしてどれくらいの時間が経過した頃だろうか。
僕は大きな振動に目が覚める。
 
ドスン!!!
 
「地震か??」
 
ブンブンが揺れている。
 
バキッ…!!
 
今度は何かが壊れるような音。
 
「何だろう??」
 
僕は身を起こす。
一体、何が起こったのだろうか…??!
 

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