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第二十八話 偶然の再会

 僕はラングーンから飛行機で一路、バンコクへと戻って来た。
 宿はチャイナタウンでもカオサンでもない、静かな住宅街にある日本人宿。

一階は食事も出来、広々とした作り。
ここで暫く旅の休息を取る事に。
 
 ここに滞在する日本人達は様々。これからアフリカへ向かう人。アジアからヨーロッパまで横断を計画する人。旅行の終わりにバンコクで寛ぐ人、本のライター、買い付け人、カメラマン、世界の海を巡るサーファーなどなど。
 
そんなところでのんびりしながら、次の行き先を決めかねていました。
 自ずと東京にいる時と大差ない生活をする。

しかし、そんな生活もそろそろ退屈してきたなと思っていたその時、僕はこの宿で驚くべき出会いを経験したのです。
 
 ある晩、僕の部屋のある三階で、共同トイレとシャワーがある場所で、洋服を洗っていました。

バンコクは空気が悪過ぎて、洗っても洗っても直ぐに洋服が黒くなる。歩いていると、目も痛くなる。
数日前に山梨から来た旅行者は、肺をやられ緊急帰国したくらい、この時のバンコクの空気は最悪でした。

バケツに水を張り洋服を漬けていた時、隣で顔を洗っていた人と目が合いました。
(この人、知り合いにそっくりだなあ。)
僕はそう思い、チラ見する。

 この人、僕が大学一年の時、考古学のアルバイトをしていたの時に一緒に働いていた浅野さんという人にそっくりだったのです。

でも、まさかね。
 
 そんな事を考えていると、その人の方から声を掛けてきました。
 
「あれ?え?まさか、RONさん(この時はまだRonと呼ばれてはなかったのですが、統一します)じゃないよね?」

 
「え…?嘘でしょ??もしかして…、本当に…浅野さん?!」僕はそれでもまだ信じられず、改めて聞く。

「ホントに??おかしいな笑 何でバンコク居るの?!」向こうも信じられないという感じで驚く。

疑心暗鬼、疑いの眼差しで、その人を見る僕。
しかし彼は、確かに一緒にバイトしていた浅野さん、その人でした。

「嘘でしょ?!そんなのありえないっしょ!!笑」
お互いにその場で大笑い。
 
 彼はバイトを辞め、単身、留学の為に中国を渡っていたはず。しかもそれから三年くらいは経過している。
「それはこっちの台詞ですよ!笑」
と浅野さん。この人は年上だったのですが、誰に対しても常に敬語なのです。
 
 よくよく話しを聞くと彼、一年間中国に語学留学した後、ベトナムやラオス、カンボジアを渡り、ここタイまで辿り着いたとの事でした。

「あれ?学校はどうしたんですか?学生でしょ??」
「いや、この前大学卒業したんすよ、自分。で、そのまま旅に出ちゃいまして。先ずはビルマに行ってきたんですけどね。その後どうしようかを、丁度考えていたとこです」と僕。
 
 この場で話が盛り上がる僕ら。
そして勿論、そのまま意気投合。

このままタイを南下しようという話になりました。
 
当時のアジアでは、旅行者達の間で色々な噂があった。
「それはもう信じられないくらいに美しい島がある」
「まだまだ手つかずの絶景がある」

など。ただの噂から、真実まで。

まだネットが発達していなかった時代なので、皆んなお互いに情報共有したり、旅先でそんな話をお互いにカードの様に持っていたり。
よく手持ちの文庫本をトレードしたりしていましたが、それと同じく、情報もトレードしたりなどしていました。ザ ビーチという映画がありましたが、当時のアジアは正にそんな感じで、ネットが無い分、情報ノート(各国の)やカフェやバー、ホテルなどで仲良くなって旅の情報交換をするというのが、当たり前でした。

 そんな話の中で、「マレーシアに知られざる美しい島がある」そんな話を耳にしました。
色々な人などから聞いた情報をまとめるとそれは、
「マレーシアの東海岸にあるプルフンティアンという島」じゃないか?

そんな話しにまとめた僕らは、街までの道のりのメモをもらい、早速、二人で南を目指す事にしたのでした。これも何かの縁だったでしょう。
 
 実はその事を、バイト先の知り合い達に絵葉書で送ったら、仕事場のみんなが衝撃を受けていたようです。
「なんだよ、あいつら!仕事辞めて何してるとと思えば、タイに行って居て、しかも二人が偶然出会ったなんて!!」
ちょっとした話題になっていたようでした。
 
 そして、その出会いから二日後。

僕らは早速チケットを買い、タイの南部へと向かう列車に乗り込んでました。
寝台車両、係りの人が手際よくシーツをかけてくれて、簡易ベットが早速完成。ヨーロッパの列車の旅を思い出してしまいました。
 
売り子が食べ物を売りに来た。
片っ端から買い込んで、食べ尽くす。
 
 さあ、これで朝になったら、ハジャイ、スンガイコロクと、国境はもう、直ぐそこ。

今度の行き先はマレーシア。そう、あのスイスで出会ったマレーシア人達の国。これからこの国に何度となく足を運ぶ事になる。
これが第一歩でした。

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