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生きること、学ぶこと


なぜ子どもの時に本を読まないと「想像力」が鍛えられないのだろう?


〜人間の脳の仕組みから解明する〜



 最近は大人も子ども本を読まなくなっているとよく言われる。本当にそうなのか。平野啓一郎は、朝日地球会議で、どうもそうでもないようだと言う。純文学の読者は一定しているらしい。どんな本を読むかは別にして、学校図書館や地元の図書館の利用者は決して減っていない。全国学校図書館協議会の調査でも、子供の読書量は減っていない。ただインターネットと繋がる社会では一人で考える時間が少なくなっていることは間違いない。本を読む、読まない、の議論はどうもそこにあるらしい。

「脳を創る読書」(酒井邦嘉)を読む。

 酒井は「AIと脳」にも書いているが、人間の脳についてはまだ何もわかっていないと言う。言語の核心である文法もまだ解析できない。脳は有限個の文字列しか使わないのである。脳は複雑さを好む。100億をこえる神経細胞の組み合わせは天文学的であるが、実際に活動している神経細胞はわずかである。

脳のシミュレーションをする生成AIの不確かさについて警告を発している立場でもある。

 自然言語処理は大きく遅れている分野である。人間の言語能力はまだよくわかっていない。人間とまともに対話できるコンピューターは全く存在しないので、1ヶ国語を操ることすらできないのが現状である。

 言語脳科学を専門として、言語学的視点での研究は深い。言語から人間の本質を科学的に解明しようとしたのも最近のことで、ノーム・チョムスキーによる。言語を操るのは人間の他の動物に比べての特異点であり、AIと比べて何が異なるかを明らかにしようとした。

「生成文法理論」は、あらゆる人間の言語に共通する普遍的な性質を明らかにしたいするというものであった。そこで「人間の言葉は、単語が直列的に並んだものではなく、互いに結びついた木構造になっている」という発見をする。

 脳の言語に関する働きであるが、言語は94%の人が左脳に局所があることまではわかっている。これは分離脳という両方の脳を分離した手術の結果によってわかってきたことである。

 さて本題である。
 人間の子どもは単語も文法も知らなくても母語を母親の音声から聞き取り、それを単語や文法への検索をして、意味を分析すると言うことを脳で行う先天的な能力がある。有限なものから推測して意味を見出すことまでできてしまう。

読書量が多ければ、多いほど言語能力は鍛えられる

 小さい時に本を読まずに過ごしてしまうと、「想像力」が欠如したままなので、大人になったとき、自分の文章を客観的に読むことがでない。相手の心を動かすように相手の立場で物事を考えることができなくなる。

 テレビはなぜだめかというと映像には全てが見えるので、「想像力」を働かせることがない。そういうものばかりを見続けると「想像力」を使わないことに慣れてしまう。紙の本を読むと「想像力」を使わないと読めない。読書が脳を創る本当の意味とは、著者に重ねて本を読むことができるということであり、即ち脳が創られていることになる。紙の本、即ち活字情報という限られたものから著書の細部や全体を把握するためには、限りない「想像力」の発揮が必要になる。これを子どもの頃から習慣化していると、「想像力」はどんどん鍛えられる。

 人間の脳は複雑を好むということは、少ない情報の方が脳は活動を活発にするのである。

 一方、活字より情報の多い音読をすると子どもの脳はどう働くのだろう。欧米では朗読CDが普及しているそうである。音楽と同じ再現芸術であり、心の感動を呼び起こす。これはとても大切なプロセスである。さらに、自分で音読し、滑らかに読めることがすなわち著者と一体になっていることにつながっていく。

想像力を鍛えること

 ノースロップフライの鍛えられた想像力を持った方向で学びは積み重ねられるという考えがある。「” Knowledge of literature can’t grow without the knowledge of allegory, allusion, simile, metaphor” 西欧の子供たちは、学びのスタートに聖書や神話を徹底して学ぶ。ブレイク、ダンテ、エリオット、ジョイス、イエーツに共通しているのは想像力で物語ることだ。」想像力の世界は現実の歪められた世界よりもずっと重要であり、人間の、そして社会の真実の姿を表している。だから鍛えられた想像力を持つことが既に主体的なものの本質が存在することになる。そこには、自分に全ての責任があるという無自覚の倫理や思考が内在的に存在している

 「想像力」を働かせる行為は、読書によるだけではない。数学も抽象的なだけに「想像力」が必要であるし、音楽を聴くこともたくさんの「想像力」が必要である。著者は「想像力」とは自分の言葉で考えるということであるという。

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