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わたしたちの結婚#3/シャッターチャンスと動物園



あらいぐまラスカルのスタンプにハマっていた。

無邪気で可愛くて、使う私も元気をもらえる気がした。


「レッサーパンダが好きなのですか?
 レッサーパンダを見に、動物園へ行きましょう」

友人となり、LINEのラリーをしていた中で、夫が誘ってくれた。

私は頭の中に、みっつくらいハテナマークを浮かべた。
ラスカルはアライグマなんだけどな。

レッサーパンダ、とGoogleで検索する。
画像検索でヒットしたその顔は、とてもとてもラスカルに似ていた。
正直、アライグマよりずっと。

確かに、キャラクター名を知らなければ、この子はレッサーパンダだな。
スマホを片手に自然と笑みがこぼれる。


「ぜひ、ご一緒したいです」

何気ないやりとりの中から、私の興味関心を見つけようとしてくれている、そんな努力が愛おしかった。

何を着て行こう。


はじめてのお出かけデート。

素直に楽しみだった。



当日、夫は大きなトートバッグを持っていて、いつになく真剣な表情をしていた。

「行きましょう」
これまで饒舌だった夫は、不思議なほど言葉少なに、早足で目的の場所へ急いだ。

お目当てのレッサーパンダは、元気いっぱい無邪気に走り回っていた。

「可愛い」
目を細めて眺める私の隣で、夫は本格的な一眼レフカメラに長い望遠レンズをつけたものを取り出した。

そして、ものすごい勢いでシャッターを切った。

真剣な表情で、レッサーパンダを追う。
私のことなんてそっちのけで、あっちで構え、こっちで構え、レッサーパンダの檻の周りを何周もしていた。

レッサーパンダより、夫を見ている方がずっと面白かった。大きな身体を縮めたり、伸ばしたりしながらシャッターチャンスをうかがう夫は、世間的には十分おじさんなのに、すっかり少年のようだった。


夫の顔がカメラから離れたのは、ある程度の時間が過ぎてからだった。

満面の笑顔で私を振り返り、
「撮れましたよ」と
満足げに言った。



その後も、私が可愛いと動物を指差すたび、
「あのフラミンゴですか?
 どれですか、右端?それとも真ん中?」
と確認もそこそこに檻のそばに飛んでいって、夫は一生懸命写真を撮っていた。

夢中で写真を撮る夫を見るのが可愛くて仕方がなかった。


この人は、娘の運動会なんて日には、1日中走り回って写真を撮るのだろうな、と想像して笑ってしまった。

何度もしゃがんだり立ったりを繰り返して、膝小僧がどんどん汚れていくことにも全く気付いていないようだった。


「学生ぶりの動物園でしたが、すごく楽しいですね」


夫はめちゃくちゃ満足そうだった。

曲がりなりにも婚活中のデート相手を放っておいて、写真に夢中になる夫は、女性とのデートがおそろしく向いていないと思った。

「私も楽しいです。こんなに楽しいとは思わなかった」

頭で考えるより先に、素直な感想が口をついて出た。
うまく合わせてくれる人と一緒にいるより、その時を心から楽しんでいる人と一緒にいるほうがずっと楽しいことに気が付いた。





家に帰ってしばらくすると、LINEで写真が送られてきた。

あんなに沢山撮っていたのに、1つの動物につき2〜3枚の写真が厳選されていた。
どの子もそれぞれの特徴をとらえ、くりくりした目や、つやつやした毛並が美しく、今にも動き出しそうな躍動感のある写真だった。



可愛い。
動物園たちの自然な可愛さが引き出されたその写真は、いくら眺めても飽きなかった。



ロン204.

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