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わたしたちの結婚#4/ハプニングと会いたい気持ち



動物園に行った日の話をもうひとつ。



動物園を堪能した私たちは、夫が探しておいてくれたカフェでお昼ごはんを食べた。

和室にテーブル、というなんとも粋なカフェだった。


週末はなにをしている、とか
そんな当たり障りのないことを話していたと思う。


そろそろ帰ろうと、2人で駐車場に向かうと、夫は例の大きなトートバッグをごそごそと探しはじめた。

財布をなんどもあけたり、かばんを何度もごそごそと探した。

「すみません、駐車券をなくしてしまったみたいです」

夫はすっかり青くなっていて、見ているこっちが気の毒になる程だった。

「大丈夫。落ち着いて探せば出てくるものですよ」

夫はもう一度丁寧にひとつひとつ探していった。
あいにく、見つからないようだった。

「係の人に相談してみたらどうでしょうか。なくしてしまった場合の対応を教えてもらえますよ、きっと」


「そうですね、そうします」

夫は思いがけないことに結構慌てているようだった。


「一緒に行った方がいいですか?」

私は聞いた。

ハッとした顔をした夫は、慌てて車の鍵を私に手渡した。

「中で待っていてください」

ペコペコ、とお辞儀をして、小走りでかけていった。


助手席に座って、どちらがよかっただろうか、と思い悩んだ。


まだあまり親しくないデート相手に、係員の人に注意されたり、自分の不注意を説明したりする姿をみせるのは辛かろう、と気を遣い、
「一緒に行った方がいいですか?」
というセリフを選んだ。


けれど、
「一緒に行きましょうか?」
の方が親切だっただろうか。

トラブルは相手任せだと、冷たい人間にうつっただろうか。


神様がよこしたちょっとしたイタズラにソワソワする。

スマートフォンを手に取り、
「私のことは気にせず、ゆっくり解決してくださいね」

笑顔のラスカルの絵文字と一緒に送った。


夫が戻ってくるまでの時間は、そんなに長くはなかったけれど、この選択の間違いが夫を傷つけ、もう会ってくれなかったらどうしようと不安になった。

動物園で見せてくれた笑顔を思い出して胸がきゅっとする。

私たちが参加していた婚活のシステムは、デート後に婚活のシステムにまた会いたいかどうか入力するものだった。

どちらかが終わりにすると決めれば、お互いの連絡先は消すのがルールだ。

ほとぼりがさめてから、「久しぶり、どうしてる?」なんてLINEをすることは出来ない。


まるで、初めからなかったことのように、私たちは自分たちの生きる世界線に戻っていく。


そんなことになったら寂しいなあ。


ぼんやりと考えていると、夫がほっとした表情で戻ってきた。

「お待たせしました」

優しい声がありがたかった。

「なんとかなりましたか?」
不安気に問いかけると、夫は気恥ずかしそうに頷いた。


駅までの短いドライブ。

夕暮れが美しい時間だった。


「次は梅を見に行きませんか。ライトアップしているところがあるんです」

夫は当たり前のように、次のデートの話をしてくれた。


そのことがとてもとても嬉しくて、助手席で何度も何度も頷いた。


私といる時間が、彼にとっても心地いいものだといい。

そう祈るように思った。


ただ、彼にもう一度会いたいと思った。

次の週末が、待ち遠しかった。



ロン204.


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