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川島雄三「縞の背広の親分衆」

ラピュタ阿佐ヶ谷で、川島雄三「縞の背広の親分衆」 原作は八住利雄。 脚本は柳沢類寿。

大親分亡き後も健気にシマを守る後妻(淡島千景)の元に、ヘタ打って15年南米にいた組員(森繁久彌)が戻り、高速道路の建設ルートに鎮座するお狸様を巡って敵対する新興風月組を担ぐ道路公団との丁々発止の行方を、一気のスピードで駆け抜ける、怪作にして快作。

まず私自身のことを正直に白状すると、川島監督は「幕末太陽傳」「洲崎パラダイス赤信号」でお気に入りだが東宝時代のプログラムピクチャーに全く無知なばかりか、世代的に森繁久彌もフランキー堺も淡島千景もお爺さんとかおばさんとか、そんなテレビの印象だけですw

私が生まれる前の1961年の映画なんて、予備知識も無いし観ていて脳内がカオスになるばかりだよ・・・というのは本当の理由はそうじゃなくて、映画のテンポがメチャクチャに速すぎてストーリーもあって無いようなもの、むしろ時代を先取りしたような内容だから付いて行けないw

なかでも大親分の娘・団令子リーダーの後を付いて台詞は一切無く「デュワ、デュワ、デュワー」と通り過ぎるだけの珍妙な3人娘。スタイルは抜群に良くて、でもルックスはちょっと微妙だけど健康的な美脚がゾクゾクする娘たち、調べたら「スリーバブルズ」っていうらしい。

タイトルにある縞の背広って、大鳥組の亡き組長が、愛する妻と可愛い子分のために三着をこしらえて形見にした。一着は後妻の千景、もう一着は子分のフランキー、そしてもう一着を南米から帰って来たばかりの森繁が組長の死を知り悲しみに暮れながら着る。でも「それだけ」で、物語には一切関与しませんw

ザックリ先にストーリーを言えば、お狸様を祀る社が高速道路の建設予定地にあり、これを守ろうとする旧式ヤクザの大鳥組と、壊そうとする新興ヤクザの風月組、両者を仲違いさせて立ち退き料を釣り上げポケットに入れようとする悪徳道路公団関係者どもの三角関係です。

実はこのお狸様ってのが、大親分が娘の団令子が生まれた時に祝いで立てた因縁の社。大鳥組のヤクザたちが必死で社を守ってるのに独立精神に富む団令子はちゃっかり社を自分ちの庭に移設して土地を道路公団に売りつけてガッポガポという締まらないオチはどうにかしろ。

まあいいかw森繁久彌にフランキー堺にジェリー藤尾に桂小金治。淡島千景に団令子に、なんと西村晃まで!濃すぎる面々が「これ、実はアドリブなんじゃないの?」と思う位にはっちゃけて存分に暴れ回って気が付いたらあっという間に90分が過ぎててエンドマークなんだもんw

森繁久彌は私のイメージある彼よりも20歳以上若くてなんか違和感w淡島千景に至ってはファンの方には申し訳ないけど扇千景と淡島恵子と3人頭の中ごちゃごちゃで「え、国会議員になった人なの?」と恥ずかしい錯誤までしちゃってビッグネームのはずなのに楽しめないw

それでも私、人生の隙間隙間に喜劇シリーズは何本か観てるはずなんだよね。若き頃の森繁久彌みたいなお兄さんをテレビで観た記憶は確かにあるw軽いノリのコメディドラマでしかも異様なまでにテンポが良いから観終わった後にサラッと忘れちゃう。娯楽として最上だと思う。

だから観終わった後に感想なんか書いてると魂抜かれるぞ!なんて怖さも味わいつつ何とか書いてますw右から左に抜けていくような喜劇映画なんだけどテレビとは明らかに違う。ドラマとかコメディとかジャンルで色分けされてない。全て一本の映画で楽しめる総合芸術なんだ。

15年ぶりに組に戻って来た森繁久彌が浪花節とすれば寺の坊主の副業しながら組に残ってるフランキー堺は気風の良い江戸っ子。冒頭から森繁が浪曲ベッサメ・ムーチョで入って来る辺りで歌謡ドラマの予感がするんだけど、フランキー堺がせっかくいるのに音楽喜劇ではない。

印象に残る場面を上げていくと、森繫が大鳥組を再興しようと賭場を開いてすぐにパクられて牢屋に収監されるんだけど、出所祝いのステーキフルコースが刑務所に届けられてパクつくシーン。なぜここかと言えば、退屈な前半から急にジェットコースターのように面白くなる。

喜劇としては、フランキーより森繁の方に分があると思うんだよね。森繁は象デパートに再就職してクレーム処理係で八面六臂の大活躍が本作で一番笑えるキモで、一方のフランキーは兄弟分の小金治とグダグダしてる間に大鳥組と風月組の決闘の日が近づく。あっという間にw

風月組は組長の有島一郎以下、基本的に脇を固めてる中で、一際目立つのがチェリー組を興したジェリー藤尾。フラワーショップを経営する団令子と新世代で仲良くしていて、令子に気があるフランキーとジェリーの間に一触即発の危機が訪れる瞬間なんか映画を観てる気分になる。

基本的にはヤクザ映画のパロディみたいなもんだから、序盤で戻って来た森繁と迎え入れる千景が仁義を切りあう場面とか、大鳥組の篭絡を目論む有島組長が千景を口説こうとして啖呵切られる場面とか、急に( ゚Д゚)となる。あ、これってヤクザ映画だったんだ、と思い出してw

道路公団がチビの西村晃に大鳥組と風月組をウロウロするチンピラとして使い、最後まで気が付かなかったんだけど渥美清が汚ねえ政治家で裏で糸引き、風月組が社を壊せばジエンドなのに妙に話を引っ張って大鳥組にも頑張らせる。これって地上げ代金釣り上げのためなのよねw

風月組は有島組長の千景篭絡が森繁に殴り込みで失敗し、賭場でジェリーがスッテンテンなんかもあってw令子は庭にちゃっかり社を移設済だし、なんか締まらねえなあ、と思っていた所に、風月組から大鳥組に果たし状ですよ。しかも巻物みたいにグルグル長すぎて困るw

森繁が果し合いの現場に来てみれば、小学生たちが写生をしていて「動かないで!」と怒られるし(笑)ドスを抜いてみればポキッと折れちゃうし、これ、ホントはヤクザ映画じゃねーだろ!と気づいた頃にはすっかり終盤まで来ていて、この映画、どうやって締めるんだw

フランキーは花札の名手で、若き日の愛川欽也らをスパルタ教育で鍛えるんだけど(仲本工事の体操コントみたいw)森繁がその腕を買って再度、賭場を開いた罪で指名手配され、逃げ出したところに入れ替わりで南米でこさえたハーフの3兄弟が「こんちはー」でジャンジャンw

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