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いまおかしんじ「れいこいるか」

TAMA CINEMA FORUMで、いまおかしんじ「れいこいるか」 脚本は佐藤稔。

阪神大震災で一人娘のれいこ(3歳)を喪った後に離婚した夫婦、ひょんなきっかけで殺人を犯してしまった夫(河屋秀俊)と、娘が圧死した悲しみから暗夜に生理が来てしまった妻(武田暁)、流転の20年を経た二人の劇的な再会と前向きな別れ。人生の応援歌に感動の涙が止まらない傑作。

映画全体に優しさが満ち溢れている。悪い登場人物は一人も出てこない。全てが善人で、観ていて気持ちがほっこり温かくなってくる。でも、そんな善人ばかり、なぜか天災は命を奪ってしまう。阪神大震災が発生した1995年1月17日、いったいあなたはそのとき、何をしていましたか?

素敵な出会いと悲しい別れが循環する。私がこれまで観た映画で教えられたこと「人は皆、いつか死ぬ。だから生きている人は、この世からいなくなってしまった人の分も懸命に生きなければならない」困難を乗り越え優しく助け合い、少子高齢化が進む中、身を寄せ合って生きる神戸の下町の人々。

須磨海浜公園で始まり長田区の若松公園で終わる。佐藤宏がウルトラセブンのミニチュアを手にジュワッチ!と叫んで始まり、鉄人28号のミニチュアを手にジュワッチ!と叫んで終わる。幼子を亡くした夫婦の残酷な運命を描く物語に、佐藤宏が観客に息抜きを与えてくれる。

クライマックスは、別れた夫の河屋と妻の暁が20年ぶりに再会する場面。暁が「いるか?れいこ?れいこ?いるか?」と叫び、河屋は「いるかはかるい、おや?いるかはかるい、だってw」と面白がる。あまりの劇的な展開にトランス状態の元夫婦の回文的な会話の演出が秀逸!

本作は、朝日映劇第一回製作作品(制作は国映w)私が朝日映劇さんと初めて出会ったのは出来たばかりのシネマハウス大塚での「愛の処刑」「巨根伝説 美しき謎」三島由紀夫特集企画だったと記憶。私は当初、朝日映劇さんを「一体、どこの映画館なんだろう?」と勘違いしてたw

それから数年、朝日映劇さんと「アルプススタンドのはしの方」ならぬ「映画館のはしの方」で時々出会い続け、今日ついに朝日映劇製作第一回作品を観て感無量!私はしみじみと思う「朝日映劇さんって、映画館じゃなくて映画製作の方だったんだ!」第二回目も楽しみ!

ピンク映画ファンとして絶対に触れておきたいのは、高木功オマージュについて。と言っても、本作がオマージュしている訳ではない。劇中で登場する怪しげな青空シナリオ教室の講師が、熱烈に高木功を師匠として崇拝し、生徒にも「痴漢身体検査」のシナリオを教える(笑)

高木功は、死と向き合った人だ。まだシナリオライターとして世に出る前、葬儀場で故人の生前の思い出をシナリオ化するバイトをしていたらしい。そんな彼がシナリオ雑誌に応募して、滝田洋二郎の目に留まり、コンビを組んで初めて書いたシナリオが「痴漢身体検査」1985年公開のロマンポルノだ。

その一年後、高木功は内田裕也との共同脚本で「コミック雑誌なんかいらない」を書き上げ、滝田洋二郎はこの作品で一躍、日本を代表する名監督となった。そんな高木功は1994年7月、まだ38歳の若さで亡くなった。そして彼の初めての単行本「百年、風を待つ」が出版された。高木功の夢は、小説家になることだったらしい。

娘のれいこを幼くして阪神大震災で亡くし、それから人生設計が大きく狂い始め、元に戻らなくなってしまった夫婦。演じるのは、関西では著名な舞台女優の武田暁(あき)と、数々の秀作ピンク映画で好演を見せた川屋せっちんこと河屋秀俊の二人。河屋は売れない小説家役、彼のキャラクターはどこか、高木功の面影が重なる。

「宏を演じた佐藤宏です」実は主人公?佐藤宏は、台詞が「ジョワッチ!」しかないwww手にウルトラセブンのミニチュアを持って街をフラフラ歩く怪しげなおじさん。私はヘンな人だとは思わない。ヘンかマトモかを決めようとする世間がヘンなのだ。

ジョワッチ!から始まり、ガオー!のはずが、結局はジョワッチ!で終わる物語。鉄人28号を描いた漫画家・横山光輝は長田区にゆかりのある人で、若松公園に展示されている「鉄人28号の像」は震災復興の象徴とも言える、佐藤宏が鉄人28号の像の前で敢えて「ガオー!」と叫ばずに「ジョワッチ!」には多分、深い意味が、ある、のかな?

れいこが震災で落下物に巻き込まれ圧死、暁は河屋と離婚して、別の男と再婚する。これは映画の中で徐々に明らかにされるが、暁と河屋の出会いは、河屋は神戸メトロ構内の卓球場だと思い込んでいて、暁は須磨海浜公園の水族館だと思い込んでいて、そのすれ違いには劇的な人生の出会いと別れの意味が込められている。

暁の実家は、神戸の下町、鷹取にある「喜多酒店」角打ちと言われる、酒屋で買った酒をそのまま立ち飲みならぬ座り飲みができるお店。彼女は夫の河屋と別れた後、実家である北酒店を母親と一緒に切り盛りしつつ、娘を亡くしたショックから来る遅れて来た生理現象で次々の男と結婚離婚を繰り返す。そして旧姓を冠した「森下酒店」に屋号を改め、新しい人生を歩みだす。

1995年1月17日。売れない小説家の河屋英俊は妻の武田暁、そして愛娘の3歳れいこちゃんの誕生日を祝って、須磨海浜公園の水族館でいるかショーを見た。傍目は仲が良さそうな家族。でも、はい、ここで質問です「阪神大震災が起こった当日、あなたは何をしていましたか?」暁は何と、若い男と浮気していたのです!濃厚なベッドシーンがピンク映画みたいでエロい!

河屋は、暁がホテルで浮気相手と一発ヤッてる最中、誕生日プレゼントに買って貰ったいるかのぬいぐるみを持つれいこと一緒に、ホテルの外で妻の帰りをずっと待っていた。そして大地震、暁は男とベッドの上で膣痙攣に襲われ、病院に運ばれた。その間に、れいこは天井からの落下物が頭に当たり、圧死した。

れいこが圧死したという出来事は、暁にも河屋にもショッキングな出来事だった。暁は河屋と離婚し再婚した。2000年の春。河屋は相変わらず売れない小説家のままで、暁に新しい夫を紹介され、握手した。桜が満開の公園で、みんなで花見をした。でも、れいこはもういなかった。

暁の最初の再婚相手は、バー「ラフワーク」を経営しているイケメンだったが、チンコを切ってオネエに変身した。それが彼の夢だった。暁はハンガーもまともにかけることができない、夜の商売は無理だった。実家の喜多酒店で近所のおっちゃんたちの相手をしてるほうが、ずっと性に合っていた。

2005年の夏、暁はオネエになった再婚相手とも別れ、再々婚した。自分の劇的な人生を映画にできるんじゃないか?と思い、青空シナリオ教室に通い始めた。そして高木功を師と崇めるインチキくさい講師にプロポーズされ「新婚旅行はワイハー!」と大喜び、でも、講師は突然の夜逃げ(笑)

この時、河屋は路上で古本を売るおっちゃんに店番をお願いされ、新聞の川柳投書欄に目を止めた「圧死せし 娘のことを悲しみて、暗夜の中に生理止まらず」これは自分の妻のことだと思った。河屋は妻と初めて出会った、神戸メトロの卓球場に向かった。

河屋は卓球が上手な男の子と仲良しになった。その小学生を師匠と崇め、卓球を教えてもらった。でも、彼がお母さん(西山真来)と一緒にスイカを持って歩いている所、偶然出会ったはいいが、そこにDV夫もいた。妻と息子に暴力を振るうサイテーの男は熱烈な阪神ファンで「赤星53」のユニを着ていた。

河屋はDV夫が真来と息子を殴るのを止めようとして、はずみでその男を殺してしまった。河屋は警察に自首する前に「ラフワーク」に立ち寄り、暁の二番目の夫に日本酒を注いでもらい、グイッと飲み干した。その時、彼は命よりも大事にしていたいるかのぬいぐるみを、店に忘れた。

喜多酒店に、佐藤宏がオレンジのジャージで半ケツ出して、ウルトラセブンのミニチュアを持ってやってくる。おっちゃんたちは、基本的に退屈で暇なので、宏くんと遊んであげる。そんなおっちゃんの中に一人、これはという人がいて、暁は還暦を過ぎた母親の再婚相手として紹介した。

2010年秋、河屋は刑期を終えて、出所した。最初に立ち寄ったのは「ラフワーク」日本酒を注いでもらい、飲んだ。そして忘れ物したいるかのぬいぐるみを受け取り、暁の実家である喜多酒店に電話した。でも、暁はいなかった。暁はシナリオ教室で知り合った青年とはずみで同棲を続けていた。奔放な恋愛と乱れた私生活で、どんどん視力が弱り失明寸前になり、白い杖をつかないと生活できなくなった。

暁の母親の再婚して間もない夫が亡くなった。河屋がようやく喜多酒店に辿り着くと、暁の母親はボケていて、河屋のことを自分の夫と間違えている。もう、全て何もかも変わってしまった。河屋は韓国教会のキリスト像に「アーメン、ソーメン、冷ソーメン」身近な人が亡くなっていく無常を嘆いた。

暁は、サングラスをかけ、杖をつきながら神戸メトロの卓球場の前を歩いていた。喜多酒店の常連さんが声をかけた。そして、目が見えないことを良いことに、キスしようとして拒まれたw常連さんは暁が河屋とヨリを戻せばいいのに「鶴亀、鶴亀」と呟いた。

2018年の冬を迎え、視力が回復した暁は、母親の死をきっかけに実家の酒屋を継ぎ、屋号を旧姓の「森下酒店」に改め、心機一転、頑張って行こうと思った。その頃、河屋は「ラフワーク」で飲んでいた。暁は偶然、「ラフワーク」に酒を配送中、店から出てきた河屋と再会した。

暁が運転する酒屋のワゴン車が、阪神高速の下、国道2号線を西に向かって走っている。河屋と暁は「これからどこにいこうか?」須磨海浜水族館に行くことに決めた。二人で水槽を眺めていると、見知らぬ青年が河屋に声をかけた。その青年はカップルで水族館に来ていた。

河屋が叫んだ「先生!」2000年当時、10歳の小学生だった卓球の師匠、彼は23歳のイケメン青年に成長し、「れいこ」という名の恋人がいた。「こんなに大きくなったんだ」感無量の河屋。その隣で、暁が泣いている。別れ際、暁は「れいこちゃん、元気でね!」でもれいこは「あの人、誰?」

暁の目から、涙が溢れた。目の前にれいこがいた。れいこは、彼氏に河屋のことを「僕の命の恩人です」と紹介してもらったが、暁を見て('Д')この人、誰?暁には目の前にいる大和の恋人、それが震災で亡くなったれいこの大人に成長した姿に重なり、切なくなったのだ。

暁と河屋は、大震災の当日の忌まわしい記憶を、思い出した「あの日、いるかはなぜか水面から飛び出さず、水中をうろうろと泳いでいたよなあ」でも、二人がいるかショーを見ていると、二人の目の前で、いるかは確かに水中から勢いよく飛び出した。

暁と河屋は、二人が初めて出会った場所の話をした。河屋は「あの青年が小っちゃい頃、卓球を教えてもらった。その卓球場だよ」でも、暁は「違うわよ。いるかショーを見た海浜公園よ。二人はそのまま、酒を飲み、上機嫌で河屋が宿泊している木賃宿に入った。

暁は、河屋の部屋に置いてあったいるかのぬいぐるみに気が付いた「れいこ、いるか?」「いるか、れいこ?」何度も叫んだ。河屋は「いるかは、かるい」「いるかは、かるい」何度も繰り返し、ぬいぐるみを振り回して笑った。二人はじゃれて抱き合った。でも、それ以上は進展せず、部屋を出た。

二人は、暁が「二人が初めて出会った場所」という海浜公園に行った。でも、工事中でその面影は無かった。河屋は今、東北で解体工事の仕事をジプシーでしているという。次の仕事先は宮城だ。二人はにっこりと笑って、手を振って別れた。れいこ、いるか?

毎年1月17日、神戸市中央区の東遊園地では、大震災の犠牲者の方々を追悼する式典が開かれる。竹とうろうに点灯し、献花、黙とうする。午前5時46分、それまでオレンジ色のジャージでウルトラセブンのミニチュアを手にはしゃぎ回っていた佐藤宏が、神妙に手を合わせ、黙とうする。

佐藤宏は、フラリと喜多酒店を訪れ、後生大事に抱えていたウルトラセブンのミニチュア「セブン!セブン!」と言いながら、彼は暁の働く酒店に突然置いた。みんな驚く「お前の一番大事なもんなんじゃないの?」今、彼の手には鉄人28号のミニチュア、若松公園でモニュメントに向かって叫んだ「ジョワッチ!」(←ガオー!じゃないのかよw)

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