記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

にいやなおゆき「灰土警部の事件簿~

国立映画アーカイブで、にいやなおゆき「灰土警部の事件簿~人喰山」 

12人連続婦女暴行殺人犯を連れて通称「人喰山」に遺棄死体の捜索に分け入った怖いもの知らずの灰土警部。姉を強姦殺害された15歳少女の業を契機に明らかになる人喰山の真実。恐らく実写不可能な地獄絵図が恐怖の紙芝居アニメーション。

感激だ。にいや監督のアニメーション作品を日本映画の総本山国立映画アーカイブで鑑賞する日が来るなんて!音響演出を担当された光地拓郎氏を偲んでの追悼上映、確かに効果音のおどろおどろしさが恐怖心を最大限に煽ってくれる、音あってこそのアニメ。

先日、東京都写真美術館映像ホールで「乙姫二万年」を鑑賞した時も明暗や濃淡がくっきりと描かれる大スクリーンの迫力に酔いしれたけど、本作もDVD鑑賞しかしていなかったので、国立映画アーカイブ大ホールの大スクリーンで見るど迫力は凄いもんですよ!

アニメーションというのは静止画を何千、何万枚と高速で繋いで動きをスムーズに出すことで実写と同じ感覚が味わえるんだけど、紙芝居となると話が違う。これを大スクリーンで観る時の圧迫感、目の前に迫ってくるような感覚はなかなか味わえないものだ。

これは電気紙芝居だから、日本昔話のあるところにおじいさんとおばあさんが・・・みたいなヌルい物語を想定してたらぶっ飛びますw完全にR-18指定。っていうか、大久保清事件をモチーフにしたと思うんだけど、若松孝二の洞窟に強姦殺人した女性の遺体を並べた話より更にぶっ飛んでる。

ああ、どこまで感想を書いてもいいんだろうか?ネタバレとかそういうことよりもっと根源的な問題でw連続婦女暴行犯がちゃんと恋人もいたのになんでそんな凶悪犯罪を?という部分を徹底的に悪夢に描くとこうなるんだなあと思ったし、実写で描くのは120%、不可能だろうなあw

灰土警部が主人公のようでそうではなくて、実はやっぱりそう(←どっちなんだよw)冷酷非情な灰土警部が世の犯罪者や性被害者の怨念とか異常性を脳内に目一杯突っ込まれて最後は発狂しちゃう、そういうメタファーを敢えてお伽話風にグロくアレンジしたものと捉えてみましたw

よくピンク映画のことを「血と暴力とエロス」みたいに表現することがある。東映ポルノがかなりいいところ、っていうよりヤバいところまで(笑)振り切れて、結局は牧口雄二が撮った「戦後猟奇犯罪史」この作品で大久保清を演じた川谷拓三の気持ち悪さが私の原点には、あるw

川谷拓三が演じた大久保清は恐らくかなりデフォルメされていて、刑事を人を喰ったように対応し、死体遺棄現場の山林を案内する時も鼻歌交じりだったけど、強姦殺人被害者女性の肉親から一斉に石を投げつけられて昏倒する。私はそこに人間と言う名の妖怪と修羅を見たのだ。

ということで(←ということで、じゃねーよw)本作は大久保清の歪んだ性格とそれを形成した病的なムラ社会を若松孝二や牧口雄二が赤裸々に描き出した、今より表現の限度にタガが緩かった時代を考えると、こういうテーマはどうしても紙芝居じゃないと描けない、自粛自粛の現代社会では。

本作は徹底してロマンチシズムよりも、得体の知れない恐怖が観客の耳目を包み込む作品で、強姦魔にレイプされた姉の復讐のために人喰い山に入る少女が人喰い鬼の鬼畜大宴会の乱交パーティに欲情して「おら、興奮してきただ」手近な灰土警部との禁断のセックスに戦慄する。

DVDで鑑賞した時は可哀そうな少女の姉をレイプした強姦魔が人喰い山の鬼たちに人肉シチューにされる因果応報の方に気を取られたけど大スクリーンで観ると印象が全然変わって来る。この世のものと思えない惨劇や復讐の連打はクライマックスに繋げる布石。

最初は、連続婦女暴行犯が人を喰った様な対応を灰土刑事に見せて「ああ、これが人喰山か」(←違いますw)寝たきり25年の村長が怖れる人喰山祭り(←にいや監督は祭り好きw)祭りと言えば宴会。宴会と言えば酒と肴。それは一体なんでしょう?人肉と血と骨、それが鬼の大好物。

針の山とか血の池とか、地獄ってどんなもんだろう?というのは実写で中川信夫や石井輝男がおどろおどろしい造形で再現してみせたが、あくまでも虚構の域を出ない(←それ以上は無理だろw)紙芝居ならできる、ギリギリまでできる。でも動画にするとさすがに気持ち悪すぎる。

スイッチが入るのは発狂した少女の「おら、興奮してきただ・・・」の一言から始まる、人間が犬畜生に堕ちた瞬間。清廉潔白を身の上にしたであろう灰土警部は人喰い山の妖気に当てられ、少女と一線を超えたことで発狂し、退行して幼児化してしまうのだ。

冒頭、敏腕だが血も涙もない灰土警部、片腕の鈴木刑事、地元の山田駐在、そして本作のキモとなる12人連続婦女暴行犯で30歳の田代睦夫の4名が紹介され、村長が人喰山祭りの年だから今年はやめろというのも聞かず、灰土警部は山に入り天罰を受けるのだ。

彼らが山中に入ると早速、謎の少女15歳の桑原春子が現れる。彼女は姉を田代に強姦され殺害された。のみならずそれがきっかけで自分が捨て子だったと知る。彼女は山中で田代に狂犬をけしかけ噛み殺そうとしたり、ガソリンを撒いて田代ごと焼身自殺を図ろうとする。

ここまでは田代の犯した罪に対する因果応報のストーリーのように思えるのだが、本作のイメージはあくまでも人喰山に潜む鬼たちの修羅の宴を描くこと。田代は恋人もいたのになぜ彼女を殺して全裸のまま吸血樹の洞窟に捨てたのか?

それは恐ろしい鬼の仕業で、若い娘の血やら何やらが欲しくて堪らない鬼が樹のワレメに若い娘の死体を次々と捨てさせ、頭がい骨に敷き詰められた巨大な血の池に人や獣の肉がシチューのように煮え立っている。春子の望み通り、田代は皮膚を剥がれ、串刺しにされて、血の池地獄で煮込まれて鬼の酒の肴として喰われた。

因果応報なら、ここまでで十分ではないのか?でも、ここからがにいや監督の真骨頂、一味違う。ナイトメアを紙芝居の形で描き出す。鬼の宴会は欲情したオス鬼とメス鬼の交尾にエスカレート。勃起したチ〇コとグショグショのマ〇コの中に落ちた灰土警部と春子。

でも、元々が春子は地獄への道案内人、想像の産物でしか無かった。灰土警部は目を背けたくなるような地獄絵図に脳内が麻痺し、知りたくなかった蓄積された記憶が喪失、退行して幼児に戻ってしまった。でもそれは、灰土警部がそもそも慈愛の無い冷酷な人間に育った過去のトラウマであり、人喰村は灰土警部の狂気が作り出した幻の産物かも知れなかったのだ。

山田駐在は死に、鈴木刑事は行方不明だと言う。。いったい、彼らを死に追いやったのは、誰なのだ?本当の鬼は誰で、地獄はどこに、どのようにあったのだ?灰土警部の姿が少しでも自分自身に被さるのであれば、それは自問自答すればするほど、恐ろしい話である。

にいやなおゆき監督からコメントいただきました。ありがとうございます(^^)/

うわ、びっくり。とても嬉しいです、ありがとうございます!

江戸川乱歩とか、ラヴクラフトとか、新東宝の『九十九本目の生娘』とか好きな方、是非御覧ください。テレビ放映不可、大手からのDVD発売やネット配信もありえません。DVDは阿佐ヶ谷ネオ書房と、神戸映画資料館でしか買えませんよ。

そういえば「人喰山」は大久保清ではなく津山三十人殺しの方がネタ元です。と言っても、僕は高橋洋さんみたいに猟奇事件マニアではないので「なんかそういうのがあったっけ」程度でしたけど。僕の田舎も岡山県で、津山には友人も住んでるので、なんとなく。

正直、事件の詳細も知らずに「人喰山」作ってたのですが(松竹の『八つ墓村』もまだ観てなかった)。ところがなんと、僕が適当につけた田代睦夫という犯人の名前が、都井睦雄と「むつお」で被ってたってのには驚きました。

実は川谷拓三さんの息子さん、仁科貴さんが「人喰山」を見て凄く気に入ってくれて「次回作は自分も出して!」と言ってくれてたので「乙姫二万年」で、一番の難役だった変なおじさんをお願いしたのでした。

しかし私、「人喰山」作った頃は灰土警部に似てると言われてましたが(絵は本人に似ますから)、今は「乙姫二万年」の小川さんまんまですね(笑)

(国立映画アーカイブで鑑賞後の加筆版を読んでいただいて)
ありがとうございます。横浜SANさんに観て頂けて光栄です。そもそもはパソコンを買って間もない頃に、MacのiMovie'05で作ったSDサイズ(地上波やDVD)の作品です。アーカイブの方々の尽力で、大画面に耐える画質、音質にして頂いたかと思います。本当にありがたいことです。

渋谷アップリンクで公開した後、ゆうばり映画祭から誘われ。英語字幕版制作に合わせて、光地君の申し出で音声をリニューアルしました。かなり厚みが増して、作品が化けた感がありました。彼にとっても、初期の自信作だったようです。しかし、若い友人が先に逝ってしまうのはやりきれませんね……。

※因みにこの記事、「烏賊祭り」と合わせ「乙姫二万年」HPの方にもリンクさせていただきますとのこと、光栄です(*'▽')

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?