記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

中平康「狂った果実」

2022年4月ラピュタ阿佐ヶ谷で中平康「狂った果実」 原作・脚本は石原慎太郎。

純情な弟(津川雅彦)思いのチャラ男兄貴(石原裕次郎)は湘南太陽族。津川は逗子駅で見初めた美人(北原三枝)と葉山の海で再会し恋に落ちてしまうが、彼女は実は人妻だったw裕次郎は「その女はやめとけ」と言いながら、三枝とヨットで駆け落ち。津川の怒りのモーターボートが火を噴くぜ!カッコよさ完璧の傑作。

弟思いのくせに弟の恋人三枝を横取りする裕次郎も既婚者だけどまだ20歳で青春やり直したいと雅彦と不倫する三枝も夫婦揃って(←それは映画外の話だろw)16歳の純情な雅彦は「お前ら汚い大人はまとめて逝ってヨシ!」津川おじさんの若き日の姿とは信じられない(←現実と混同しすぎw)

武満徹のハワイアンっぽい劇伴、スカしたイケメン岡田真澄の名台詞「焼酎ある?」色々と見所は多けれど、石原裕次郎&津川雅彦軍団に夜の屋台街で喧嘩を吹っ掛けた挙げ句メタメタにのされる長門裕之と石原慎太郎の見事なやられっぷりが一番印象に残る(笑)がクレジットあったかな?

公開当時、あまりにも内容が新感覚過ぎて、観客にとって衝撃的だったことは想像に難くない。石原裕次郎が主演とは思えないほどにw娯楽作品と言うよりも純文学的要素が強い作品だけど、中平監督のハイテンポ演出が天才的で、最後までサクサクと楽しく観られてしまうのがスゴい。

1956年の作品で、年長者から順に中平監督30歳、音楽の武満徹25歳、脚本の石原慎太郎23歳、ヒロインの北原三枝22歳、ヒールの石原裕次郎21歳、そして実質的な主役の津川雅彦はなんと16歳!デビュー仕立ての面々で台詞回りもたどたどしいが、はち切れんばかりの若さに溢れてる!

戦争が終わって進駐軍が来て世の中がガラリと変わって、旧体制の社会に対して反発する若者たち、いつの世も反抗的な若者というのは絶対的に存在すると思うが、時代背景が特殊なんだろう、反抗すれども一体何をしたらいいのか分からない、よくよく考えれば贅沢な悩みというものだ。

ホンは多分あんまり面白くないと思うのだが(←こらこらw)中平監督のハイテンポ演出が圧倒的に素晴らしく、やっぱり長回しはダメね、映画って活動写真だから生き物みたいにどんどん目の前で展開し続けて観る者を引きずり込まないといけない、そういう意味ではほぼ満点の作品。

歳の離れた白人の旦那に持つ三枝が、そのこと内緒で津川少年とプラトニックな恋に落ち、弟思いの優しい兄貴(←ホントにそうなのかよw)裕次郎が色仕掛けで三枝を津川から分捕り、怒り狂った津川が鬼の追い込みでモーターボートで三枝と裕次郎をあの世に送る、そういう映画ですw

90分弱の尺があるけど、内容は前半と後半と大きく分かれる、って言っても70分過ぎまでが太陽族の無軌道な青春と津川少年の純情を淡々とひたすら描く、ハイテンポ演出で無ければ観ていて辛くなる感じですがwラスト15分が凄い、とにかく鳥肌ものの予想もつかない展開にドキドキ!

前半の70分(←前半長すぎw)は、チャラ男裕次郎と純情な津川の仲良し兄弟をほのぼの描写しつつ、海で水着姿で泳ぐマーメイドみたいな三枝に津川が恋してしまって、ここに悪魔のような裕次郎が茶々入れる、なんだか通俗的な恋愛ドラマのようでいて、細部が中々凝っているw

何と言っても前半の主役は岡田真澄!裕次郎でも津川でもない(笑)時代を超えて長身ハンサムな色男で、女にだらしなさそうな、まさにハマり役で(←こらこら)日米ハーフ設定で、ナイトクラブで石原軍団の中で一人だけ英語で注文を聞かれ「焼酎、ある?」これ前半のハイライトw

当時から石原軍団ってあったんだなあ。太陽族の中心、太陽のような存在の裕次郎はキラキラしてる。夜の屋台で岡田真澄にイチャモンつけて来るレスリング部軍団「俺が石原だ」「俺は長門だ」石原役が長門裕之で長門役が石原慎太郎じゃないですか!こんな隠しキャラがあるなんて。

腕っぷしの強い石原軍団は、レスリング部なんて訳なくぶっ飛ばす。弟の津川の前でぶちのめされる長門も、弟の裕次郎にぶちのめされる慎太郎も、二人揃って情けなさすぎて、この配役はさすがに可哀想だ(笑)色男兄弟と謎の女を巡る三角関係より、こっちが気になって仕方がないw

太陽族の石原軍団が葉山の海で水上スキーに興じる。ここに佐藤勝&武満徹の音楽が流れるのだが、音楽に詳しくない私には不協和音のハワイアンみたいに聞こえて、なんだか変な感じ(笑)当時はハワイとか海外旅行は夢のまた夢だったから、湘南がハネムーン先だったのか?なんてw

中平監督の作品は漏れなくそうだと思うのだが、ロマンポルノっぽくエロいwまだデビュー仕立ての裕次郎も三枝も津川も、普通に濡れ場を演じさせられてるwキスまでは大胆にやって、ここから先は画面は切り替わったらコトが済んでるパターンだけど、将来のビッグネームだからなあ。

今から55年も前の映画と考えれば、モノクロではあるにせよ、北原三枝の水着姿はかなりエロい(*'ω'*)今でも十分、ヌケるんじゃないか(←こらこらw)16歳の童貞津川が22歳の三枝にぞっこん一目惚れする、そのきっかけはエロい水着姿。これ以上の説得力はないだろ、男なら分かるw

この作品、ラスト15分までは、全部が前振りだと思うんですよね(笑)当時の鎌倉駅舎、逗子駅舎、横須賀線ホームや汽車、列車内の様子など、鉄道ファンにとっても貴重な映像資料になってるんじゃないか。なにせ湘南の風景をそのまんま映してるから、タイムトリップできる感覚。

この映画の醍醐味はラスト15分に凝縮されていて、この部分があってこその傑作、逆に言えば、もし無かったらどうなっていたんだろう(←そんな訳ねーだろw)でも、人によっては1時間位観て「あんまり面白くねーな」と劇場から出てしまった人もいたんではないか、前半は我慢だ。

重要な前振りは、チャラ男の兄裕次郎と、純朴な弟津川の実家は大金持ちで、葉山にヨットとモーターボートを持っている。津川は鎌倉駅で偶然会った三枝と駅のホームで再会して彼女が落としたスイミングキャップを渡す約束して、それから水上スキーを一緒に楽しむ仲になる。

純情な津川少年からすれば、20歳のピチピチ三枝ちゃんが自分より年上だとは言え、まさか既婚者だとは露ほども知らず、人気の無い岩場でキスして抱き合う、ラブラブの仲に発展するが、これを良しとしない、弟思いの(←ウソだろw)裕次郎が、三枝の正体を暴き、強奪にかかるw

裕次郎は、ナイトクラブで米国紳士とダンスする三枝を発見、それ以前から「こいつ際どいダンスも拒まねえ」と疑いの目を向けていたから「人妻なのか!」と合点、三枝を呼び出し「お前は俺の弟にふさわしくねえ」とそのまま深い仲になり、津川少年より先に肉体関係になってしまう鬼w

三枝も三枝で(笑)「私は結婚する前にやり残したことを今やってるだけなの」と津川とは完全に遊びであることを強調(←ひでえ女だな、おいw)裕次郎は三枝とベッドインし「俺で何人目なんだ?」三枝は「あなたが初めてなの」津川だけ置いてきぼりで可哀想、大人って汚い!

さて(←さて、じゃねーよw)ここから俄然面白くなる、観ようによっては抱腹絶倒、もしくは唖然呆然のクライマックスへ。三枝は白人の旦那が家に来てしまうので、津川のデート申し込みを一日前にずらせないか手紙を出すが、それを勝手に裕次郎が読み、約束のヨットハーバーへw

ヨットハーバーで「津川君、そろそろ来るかな♡」と弁当とか水筒とか用意してルンルン気分の三枝の目の前に近づくヨットに乗っているのは、ゆ、裕ちゃん!( ゚Д゚)なんであなたが来るのよ!呆然とする三枝を強引にヨットに乗せ、航海に出発する、人でなしとしか思えない裕次郎w

当時のヨットは海上ラブホのようなものだったのだろうか?洋上で二人きりになって、三枝を押し倒して一発ヤリ始めた裕次郎。その頃、実家で三枝からのビリビリの手紙を読んだ津川は「兄貴の野郎!」ヨットハーバーに急行、モーターボートに燃料を積み、油壷まで捜索に出た!

どうしても見つからない裕次郎のヨットに苛立つ津川は、燃料をタンクにぶち込み再度、捜索に出発。死んだような不気味な表情の津川少年、マジ怖い(笑)そしてモーターボートを飛ばすこと数分、洋上で裕次郎のヨットと同乗する三枝を発見。「津川君、追いかけて来てくれたのね」

津川は裕次郎のヨットを見つけると、すぐに近づきはせず、遠回りしてグルグルとヨットの周囲を回り続ける。裕次郎はバレないようにマストで顔を隠すが(←もうバレてますw)徐々にヨットを追い詰める津川。この情景を洋上からヘリで空撮したのか?ド迫力で本作のクライマックス。

三枝は感動して、初めて会った時のように海にザブンと飛び込んだ「津川君!」でも無視して走り去っていく津川、と思ったらいきなり急旋回し、三枝に向かって猛スピードで突進し轢き殺した!唖然とする裕次郎に向かって、玉砕するようにヨットごと粉々に沈没させた、津川の怒り。

「俺の純情を踏みにじった三枝さん、大切な彼女を奪い取った裕次郎さん、どっちも許しはしません、死んでもらいます!」決死の覚悟で二人を海中へと葬り去った津川少年は、太陽族を心から憎んでいたのだろう。こわばった怒りの表情を全く変えぬまま、モーターボートは洋上を消えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?