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サトウトシキ「みちのく温泉逃避行」

ラピュタ阿佐ヶ谷で、サトウトシキ「みちのく温泉逃避行」(成人映画公開題「愛欲温泉 美肌のぬめり」) 脚本は小林政広。

指名手配犯の少女(葉月蛍)が田舎の温泉旅館で住み込み仲居を始め、国家権力傘に着るスケベ刑事(飯島大介)が懲らしめにやって来た。少女は刑事を誘き寄せ、決着付けると次の温泉町へと旅立った。不幸な身の上の少女が自分だけを頼りの旅烏、股旅サスペンスの傑作。

私はラピュタでピンク映画が上映される時には出来る限り事前にプレスシートであらすじに目を通すことにしている。で、実際に観ると内容が特に結末にかけて異なっていることが多いのだが、本作は小林政広のホンをトシキ監督がかなり忠実に撮ったと思われる。

でも、ホンの通りに撮ったことを以て「ホンの通り」とは全然思わない。トシキ監督の個性である、クールでちょっと突き放したような演出が本作ではこれでもかと間近に迫って来る。感動の波をなかなか刺激しないように張り詰めた緊張感の中で物語を継続する。

プレスシートを読んだ段階では、火曜サスペンス劇場のようなトリックを用いたクライムサスペンスなのかな?勝手に想像したが、見事に裏切られた。トシキ監督の着眼点は恐らくそこじゃない。最初からトリックは軽くネタバレさせつつヒロインの心理劇に持ち込む。

これまでに観た葉月蛍出演作品の中で恐らくベストアクトではないかと思う。投げやりのようでいて生への執念を捨てきれない不幸な生い立ちの少女。かなり複雑な状況設定で、台詞も少ないし物語の動きも少ない中、彼女の置かれた状況を静かな正義感と狂気で表現していく。

ピンク映画を代表するような名優が顔を揃えたのが理由なのは間違いない。葉月蛍、沢田夏子、佐々木ユメカ、本多菊次朗、川瀬陽太、飯島大介。それにちょっとだけ野上正義と風間今日子。寸分のスキも無いような緊張感は1時間弱の間ずっと続き、一気に瓦解する。

この作品を観て、日野繭子が父親を陥れた後妻に復讐を遂げた後、お遍路の旅に出る「少女縄化粧」を思い出した。蛍も繭子と同様に薄幸な少女だが、繭子が父親を陥れられ自分も辱められた存在だったのに対し、蛍は父親自身に辱められたことが、決定的に違う。

つまり、この作品は近親相姦を描いた作品なのである。高橋伴明が得意とした社会派ピンクで描かれた近親相姦は兄と妹の哀しい近親相姦。でもトシキ監督による本作は鬼畜な父親が蛍をレイプし子供まで産ませてしまう、究極の近親相姦で、もう言葉が見つからない。

ただし、この究極の近親相姦を以て観なければ、本作の持つハンマーのように頭にガツンと来る衝撃は持ちえない訳で、デリケートなテーマをどう表現するのか?が一番困難だった点だと思う。思わせぶりに、小出しに小出しに出して、ラストでついにガツンと行く。

例えが合っているか分からないけど、舞台となるこじんまりとした旅館には、小津安二郎を彷彿とさせるような空間が構図としてあって、映画を観てる気がする。グランドホテル様式じゃない、同時に各部屋でそれぞれの住人がそれぞれに蠢いてる、そんな感じが続く。

ヒロインを演じた葉月蛍も当然素晴らしいのだけど、鬼畜な刑事役を演じた飯島大介、彼の配役には観客がシンパシーを感じる設定が一切ない。指名手配犯の蛍を国家権力の手で存分にいたぶりたいという、身も蓋もない破廉恥な役どころは、演じるのはハードルは非常に高いが見事にこなしている。

カラオケで蛍が歌う曲はこの映画のオリジナルソングだそうで(笑)そのまま股旅のテーマになるのよね。重苦しい近親相姦の話なのに、何となく爽やかな読後感になるのは、「私は私。こんな私だから仕様がない」諦めに似た旅が田舎を転々とずっと続いていく。

冒頭、旅館の目の前で、蛍が自動販売機の飲み物を買い、喉がカラカラに渇いていてグイッと飲み干す。尋常でない彼女の佇まいに「こいつ、何かやって来たんじゃね?」感を濃厚に漂わせ、新たに仲居をし始める小さな温泉旅館のヘンな人たちを一人ずつ描いていく。

旅館の主人が本多菊次朗で、妻が沢田夏子で、仲居の先輩が佐々木ユメカで、司法浪人のバイト青年が川瀬陽太で、ここに葉月蛍が加わっても5人の小所帯。にしてはなかなか濃い顔ぶれで(笑)ユメカと川瀬はデキてるから蛍の闖入はこの2人にとって大ごとだw

でも、蛍に関心を示すのは川瀬青年じゃなくて、本多(笑)妻帯者のくせに若い女を見ればナンパするのは彼のハマり役で(笑)一緒にカラオケにいって、既にここで蛍は「私は私。だから仕様がない」みたいな歌を歌ってるのだけどw本多はヤルことしか頭にないw

最初にテロップにガミさんの名前があるから「あれ?ガミさんだけまだ出て来てないなあ」と思いつつ、「蛍は何だか挙動不審だなあ」と重ね合わせられるかと言えば、ムリだろ(笑)この謎解きは最後の最後までずっと引っ張る。テレビ放映じゃ絶対NGの大技を。

旅館にやって来る客は飯島大介刑事と風間今日子。飯島は別件でやって来て、蛍の顔を覚えていて、東京に戻ってから指名手配の写真と彼女の顔の一致に「そうか!」(←そうか、じゃねーよw)どスケベ刑事飯島の歪んだ欲望はただ一つ、蛍を犯したいという鬼畜。

飯島刑事が国家権力を傘に着て弱い物虐めをする、という感覚かと言えばそうでもなく(どっちなんだよw)蛍はそもそも指名手配犯だからさっさと逮捕すれば仕舞いなんだけど「悪い女にはちゃんとお灸を据えんといかん!」歪んだ正義感が性欲とともに発露するw

本作は濡れ場自体は控え目でピンク映画としてはちょっと失格かもしれないけど、煽情度が非常に素晴らしい。飯島が念願叶って蛍を大浴場で強姦する場面は、ここまでの溜めに溜めて来たものが一気に爆発するカタルシス。こういう昂め方もあるんだ!って感心したw

風間今日子、沢田夏子、佐々木ユメカに一回ずつ濡れ場が用意されていて、刑事の飯島、夫の本多、司法浪人の川瀬とそれぞれ一発ずつヤるんだけど、この描写が淡白なのが、ピンク映画を大きく逸脱して、マグマが最後に爆発する前の通過儀式のように感じられる。

好色な本多が蛍の住み込み部屋を夜にノックして誘いをかけるが断られたり(笑)ユメカが川瀬を蛍に取られまいとヒヤヒヤしていたり、川瀬は司法試験の受験勉強でそれどころではなかったりと、小さな旅館の中でコップの水に蛍という異物が放り込まれて巻き起こるシチュエーションコメディ的な要素も交えつつ、終わって行く前半。

そして一ヶ月が経ち映画も後半、山菜取りに精を出す蛍はすっかり旅館の仲居の仕事に慣れて、玄関の水撒きをしている最中に( ゚Д゚)と見てしまう、一か月前にこの旅館の玄関の自販機で飲み物買って夢中でガブガブ飲んでた自分の蜃気楼を見た。それが彼女にとっての合図。

一刻も早くこの土地を離れなくちゃならないという予兆だった。飯島刑事が二度目の泊まりに訪れるが今回は一人。だって今日子と違って今回のセックス相手は旅館にいるんですよ。指名手配犯の蛍!こいつをぎったぎたに犯しまくってやるという鬼畜の顔は、蛍にとって実は見慣れたものだった。

蛍をヤル機会を伺う飯島刑事の挙動はむしろ不審(笑)ユメカは一人でそばを食べにフラッと出かける飯島刑事に「美味しいそば屋教えましょうか」をガン無視され不審人物だとさえ思ってしまう。飯島刑事はそば屋で客の川瀬と偶然顔を合わせ「そこの旅館の人だね」と声かけた。

川瀬は飯島に「食事中に話しかけるなよ」ブチ切れ、これで飯島に悪印象を持ったユメカと川瀬だが、飯島は刑事にしては迂闊にも「あいつの本名知ってるか?」蛍の正体をゲロってしまう。でも、蛍が殺人犯になった理由、それは壮絶な生い立ち。

蛍は父親(野上正義)にレイプされ産んだ子は2歳、今は実家の母親に預けてるけど、父親殺しをした私はもう永久に子供に会うことは出来ない。逃げて逃げて、逃げ続けることだろう。飯島が「蛍の野郎、まだ俺様の前に顔を見せないのか」

ぎったぎたにレイプする件を諦めかけたところw夜の大浴場で一風呂浴びていると、全裸の蛍が入って来るでは無いか!急な展開に逆に怯んでる飯島が可笑しいw飯島は「ここで犯してやる!」蛍をワンワンスタイルにして、バックから獣のようにガンガン突きながら髪の毛を引きちぎるように引っ張る、このレイプシーンはど迫力!

飯島はコトが済むと、涙目で「もうやめてください」と懇願する蛍に「明日は裏の小屋に来い。ぎっちり緊縛して犯しまくってやるからな」蛍にとってその瞬間、飯島が父親の顔とダブったのは言うまでもない。ユメカと川瀬は蛍に同情し、あんた、親を殺したって言っても事情が事情だろ!

川瀬は腐っても司法浪人、今は尊属殺人罪は無く、理由ある殺人なら殺された父親の罪も問え、大幅に減刑されることは承知していた。でも蛍ははっきりと「私の問題だから私が決着を付けます!」鬼気迫った表情は、私を犯した父親と同じような鬼畜な飯島刑事をこの世に生かしておくことなんかできない。自分の手で抹殺してやる、という魂の叫び。

蛍は裏の小屋に全裸で飯島を待ち構え(*'ω'*)おお!と大喜びで抱き着いて正常位でガンガン犯し始めた飯島を突然、蹴り上げて持っていたナイフで、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。無我夢中で殺戮した。

蛍は全裸で無防備の飯島に憎しみを込めたナイフを突き刺しながら、脳裏に父親にレイプされ泣き叫んでいる自分の姿が浮かんで、涙が溢れて仕方なかった。そして飯島が絶命した後、全身血まみれになりながらもう一人の鬼畜な父親を惨殺した彼女は、幽霊のようにフーと旅館に戻った。

蛍は本多に「今日でこの旅館を辞めさせていただきます」と頭を下げた。早朝、ユメカと川瀬に深々と礼をして、見送られながら旅立つ蛍はどこに行くとも知れぬ旅がらす。私を犯した憎き父親のような鬼畜がこの世に潜んでいる限り、私はまた牙を剥く。彼女を見つめるのは源泉の煙。また彼女は次の温泉町に潜伏を続ける。

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