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「プリント」という言葉、概念の細分化

作品について説明する際に「プリント」という言葉を使うと「印刷」という言葉に置き換えられて返ってくることが多かったので、写真の分野におけるふたつの言葉の同じさと違いについて説明します。

一般的には「プリント」という言葉は「印刷」と同義です。プリント=印刷(物)です。

写真の分野では「プリント」と「印刷」は同じ意味になる場合とまったく異なる意味になる場合があります。

これは写真のプリント過程に由来します。

昔の話をします。

昔は、「写真」というと印画紙という写真用紙に焼き付けたものを指しました。

印画紙というのは光に反応して変色する紙です。正確には、光に当てたものを現像液につけた瞬間から化学変化による変色が始まる紙です。

分かりやすい例として、モノクロ写真は印画紙の、光に強く当たった部分が黒く、光に少し当たった部分がグレーに変色して作られるものです。白い部分は紙に変色が起きなかった箇所なので、ベースの白さと同じ白のままです。

フィルムの白黒反転した像を、光を透過させて印画紙に焼き付けること、焼き付けたものを「プリント」と呼びました。

僕が作品説明で使うのはこの意味での「プリント」です。

「印刷」との違いは、「印刷」がインクを吹きかけたりし、定着させる行為であるのに対して、昔の「プリント」は印画紙の化学変化を起こす行為であるということです。

やがて時代が進んでインクによる写真プリントという技術が生まれました。

データを元に紙にインクを定着させて作る写真が登場したのです。

この時から、「プリント」には印画紙の化学変化を利用したものと、インクによるものの二種類があることになりました。

これらを区別するために、印画紙を使うものは「銀塩プリント」と呼ばれます。「非銀塩写真」というのも存在しますが、とてもマイナーなのでここでは紹介しません。

銀塩プリントはフィルムを原稿にするものも、デジタルデータを原稿にするものもあるので「銀塩アナログプリント」と「銀塩デジタルプリント」と分けることができます。

僕の作品は「銀塩アナログプリント」ということになります。

まとめます。

写真「プリント」には「銀塩プリント」と「インクによるプリント」があり、「インクによるプリント」は原理上「印刷」と呼んでも大きな問題はないが、「銀塩プリント」に関しては「印刷」という表現は適当ではなく、「プリント」という表現がふさわしい、と言えます。

「銀塩プリント」と「インクによるプリント」は紙質も違えば表現力、経年変化も異なります。

「プリント」と「印刷」の違いを知っていることで写真の見え方は変わってきます。

ひとが見る世界は概念に支えられているので、概念の細分化はあなたの世界を変えるのです。

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