モンストメイキング記事と監督(ディレクション)というお仕事
遅ればせながら、「いとしのムーコ」が最終回を迎えました。半年間ご視聴いただきありがとうございました。まぁ仕事も終わったので、ここで監督という仕事はどういうことをやるのか、十人十色ではありますが、僕なりの仕事の考え方を書いてみます。というのも、この記事を読んだからです。
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びっくりしたんですよね。mixiのディレクターさん達の中で「ラフ」と呼ばれる絵のクオリティがあきらかに完成品レベル。
僕の知ってるラフってこんな感じ。
しかもこのほぼ完成品っぽいラフのOKが出たあと、いちから線画で起こし直しているんですよ。うわぁぁぁ(;^o^≡^o^;)!
線画でチェックするのは、ラフのイメージを損なっていないか、ラフと比較して正しい線を起こせているかなどを確認している。
って、ラフと呼んでるそれをそのまま修正して使えばいいじゃん!なにその「Excelに入力して計算した数値を、手作業で計算機で確認する」的な作業。
作り直させているってことは、mixi内ではあの完成度の絵を「完成具合を見るためのたたき台」だと本気で思っているようで怖いです。まぁでも、それぞれの企業には文化がありますし、ラフと呼ぶには完成形に近いスキルと工数がかかっているようですので、モンストで調子のいいmixiさんは外注さんには絵1枚で2枚分の制作費が支払われているものと確信しております。
とはいえ、線画でガシガシ書きなぐったようなラフでも、想像力と絵の修練を積んでいればある程度完成形が見えます。ガシガシラフだからこそのクリエイターさんとのトライアンドエラー、イメージの共有や、工数の少なさによる大胆な修正(ポーズ替えとか)にも対応可能になるはずなのです。なぜそれをしないのか・・・
加えて、mixiさんのリテイクの多さ。よく他のメイキング記事でもやり直し回数を誇示する記事がありますが、「リテイクが多い=妥協しない・コダワリがある」ではありません。リテイクが多いのは主にディレクション側にリテイクスキルが低いために起きることです。
リテイク・スキル
リテイクって何でしょうか。ダメ出し?まぁでもあまりいいイメージではありませんね。もちろん、ディレクション側も少ない方がいいと思ってます。時間とお金を払ってますし、それらは有限ですからね。
クリエイターさん側が内容を理解するのはもちろん必要ですが、円滑に進める、リテイクを減らすのは7:3の割合でディレクション側のスキルです。(7がディレクション)
クリエイターさんの物分りやスキルが悪い時もありますが、ディレクター側の完成イメージがぼんやりしてる、伝え方が悪い、ということをまず疑うべきです。このリテイクを減らすスキルこそが、ディレクションに重要なスキルのひとつなのです。
リテイクに必要なのはディレクション側の「完成イメージ」と「伝える技術」
ディレクション側がぼんやりとしたイメージがあると思います。例えば「暖かさ」だとか「悲しさ」とか。それをディレクターは作業者に「実作業としてどういう作業を行うか」に翻訳して伝えなければなりません。
暖かさであれば「フィルターの色相を赤に寄せ、彩度を50%あげてください」とか、悲しさであれば「首の角度を今より15度ほど下に。目線は中心ではなく下左斜めに。ただし目尻にはかからないように。その際まぶたは黒目の上30%かぶるくらいに閉じてください」など。それだけでリテイクにかかる工数はぐっと減ります。
90%の完成度に4回リテイクが必要だったとします。それを1回にまとめ、工数を減らすのもディレクターの仕事でありリテイクスキルです。
・1回目で問題点を全て修正し(マイナスを減らす・地のクオリティ)
・2回目でさらに良くなるような工夫を入れる(プラスを加える・盛るクオリティ)
のが理想のリテイクではないかと私は考えてます。エレガントなリテイクを心がけたいですね。結構辛辣なことも言っちゃいますけど(^^;。
「コダワリ」があるのであれば、ディレクターに確固たるイメージがあるはずです。であればリテイク1回目で全てをクリエイターさんに説明して、次回提出時にコダワリを反映させることは可能なはずです。何回もダメ出しをするということは、そもそもそれはコダワリと言えるのか。または伝え方が上手くいってないのではないのか、と、ディレクション側が考えるようにしたいところです。
ちゃぶ台返しはNG
例えば「こうすると面白くなると思うのでこうしてくれ」と言われたとします。クリエイターさんはその通りに修正したら「やってみたら面白くなかったから戻してくれ」と言われたことはよくあるかと思います。ムカつきますよねー。
この場合、責任は面白くならなかった事を想像できなかったディレクション側にあります。余計な工数もかかりましたし、ディレクターとして想像力のなさを反省すべき事案です。私はクリエイター時代にこれやられたことが結構あってムカついたのでやらないようにしています。
監督の仕事の80%は「間違い探し」と「決断」
いやほんとこんなかんじです。
「間違い探し」は前述のリテイクのように意思疎通の齟齬でクリエイターさんが勘違いしたところを修正したり、レンダリングミスなどを修正して地のクオリティをあげていきます。
一番重要なのは「決断」です。ディレクターにはいろいろな制作上の問題や相談事が持ち込まれます。制作が遅れてる、ここのドアノブの色はどうするか、予算上3名しかアテンドできない、etc。工数、締切、予算、状況など、どうするかを決める状況が毎日のように襲い掛かってきます。その際、私が指針にしている言葉があります。
「50年と5分」
すぎやまこういち氏が、名曲であるドラゴンクエストの序曲が5分で作曲できたことを聞かれて
「違うよ、50年と5分だよ」
と言われたそうです。5分で作曲するために、50年の経験が必要だった、ということです。
クリエイターとしても見習う発言ですが、ディレクターも同じです。ディレクションやリテイクに時間はかけられません。与えられた短い時間に、今までの全人生のスキルと経験とセンスをかけてすばやく決断をします。クリエイターさんは人生を絞り出して作っているのです。ディレクション側も決断の瞬間に人生を絞り出すべきだと心がけています。
「5分待ってくれ」
私の好きな本に「ご冗談でしょう、ファインマンさん」という本があります。
リチャード・ファインマンさんはノーベル賞を取った実在の物理学者。いたずら好きで破天荒。原爆を作った「マンハッタン計画」の第一人者で、自分の半生を綴った大変面白い自伝本なのですが、私が感銘を受けたのはファインマンさんではなく、マンハッタン計画のシーンに出てくる米軍のある高官です。
ロスアラモス研究所で原爆制作を担当することになったファインマンさん、しかしその危険性を軍は全く職員に伝えていませんでした。もしかしたら最悪の事態になるかもしれない。そこでファインマンさん達は高官に職員に原爆の理論と起こりうる事象の説明をさせてもらえるよう直訴します。ただしその危険性を職員に話すと、逃げ出す人が出て計画に支障が出るかもしれない。軍としては結構好ましくない提案ですが、提案を聞いた高官はファインマンさんにこう言います。
「5分待ってくれ」
高官は窓際でひとり考え、5分後にファインマンさんに近づき
「わかった。君の好きにやってくれ」
といい去っていきます。たったひとりが、だれとも相談せず5分で国家レベルの決断をする。この高官さんのかっこよさに痺れました。そして、これがディレクションの本質なのだとも理解しました。
重要なのは悩むことではなく、決めること。AとBと悩んでBと決めた場合、8時間悩んで決めたBと、5分悩んで決めたBは結果は同じです。ならば早い5分で決めたほうが断然いい。そして決めた結果にはディレクターが責任をもつ。
奇しくも双方「5分」という時間ですが、私の場合は最高1分に設定しました。原爆を作ってるわけではないですしね。どんな問題や決断も、1分以内に問題点を判断し、妥協策ではなく、考えうる最高の選択肢を選ぶ。最初は決断の結果の精度は悪いですが、経験を積むとどんどん精度が上がっていくのが面白かったです。成長するものですね。
監督というと「もっとここをドーンでズギャーン」とか「そこの雲をどけろ!」とかのイメージを膨らませて伝えてものを作らせる、と思われがちですが(そういう監督さんもいますが)、結構理詰めできっちりとして、決断する勇気が必要なお仕事です。「監督=偉い」というものではなく、クリエイターさん、クライアントさんに気持よく仕事をしてもらう気遣いも重要です。
クリエイターさんがいないと監督はできません。監督がいなくてもクリエイターさんは物を生み出せます。私も決して驕らず、精進していけたらなーと考えております。てことで
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