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ロシア映画「戦争と平和」鑑賞

2021年3月28日に入手したセルゲイ・ボンダルチュク監督版の「戦争と平和」。7時間の映画ということでなかなか視聴の踏ん切りがつかなかったところでしたが、お盆休みを利用して第1部から第4部まで鑑賞いたしました。

奇しくも終戦の日に見終わって感想をまとめることになったのは、不思議なタイミングの一致かと思います。

「戦争と平和」はトルストイの作品です。

レフ・トルストイ

トゥーラ郊外の豊かな自然に恵まれたヤースナヤ・ポリャーナで、伯爵家の四男として生まれる。祖先は父方も母方も歴代の皇帝に仕えた由緒ある貴族だった。(Wikipediaより引用)

とありますし、裕福な家庭に生まれて育ちましたが、学業は振るわず、相続した領域の農民の生活改善に努力したりしていたとあります。

彼の故郷はモスクワの南にあるトゥーラからさらに南に12キロほど下ったところにあるヤースナヤ・ポリャーナで生まれ、育ち、そこで一生を終えています。生家は記念館として残っているようです。

ヤースナヤ・ポリャーナ

トゥーラ

このトゥーラも歴史がある都市で、工業都市としてソ連終了までは外国人が立ち入れなかったといった話を聞いたことがあります。

サモワールの工場もあるそうですし、はちみつがたっぷり入ったお菓子、プリャーニキでも有名。

ウィキペディアの記事にもありますが、第2次世界大戦の独ソ戦(ロシアでは大祖国戦争)でドイツの猛攻に堪えたということで英雄都市の称号を受けています。

このあたりは「戦争と平和」からだいぶ後世の話になりますので、話をもとに戻しましょう。

小説「戦争と平和」

小説「戦争と平和」は膨大な分量があり、邦訳では文庫4冊分もあります。

単に長いだけでなくて、登場人物も559人にも上るとされるほど、非常に細かく書き込まれた小説ですので、あらすじの紹介はウィキペディアにお願いすることにしましょう。

小説「戦争と平和」はロシアの作家、レフ・ニコラエヴィチ・トルストイが1865年から1869年にかけて雑誌『ロシア報知』で発表した作品。
(中略)
19世紀前半のナポレオン戦争の時代を舞台に、アウステルリッツの戦いや、ボロディノの戦いを経てモスクワを制圧するもフランス軍が退却に追い込まれたロシア遠征[3] などの歴史的背景を精緻に描写しながら、1805年から1813年にかけてあるロシア貴族の3つの一族(ボルコンスキー公爵家、ベズーホフ伯爵家、ロストフ伯爵家)の興亡を中心に描き、ピエール・ベズーホフとナターシャの恋と新しい時代への目覚めを点描しながら綴った群像小説である。
本作の執筆当時、ロシアでは、それまで一般的だった古ロシア語に代わり、新たに整備された現代的なロシア語文法が浸透していたが、トルストイを含む上流階級は教養として慣れ親しんだフランス語を日常的に使用[4] していた。作中でも貴族達の会話にフランス語を交えたり、名前を「ピエール」とフランス風に呼ぶ(ロシア風ならピョートル)という、当時のロシア貴族に対するフランス文化の影響も描写している。
登場人物は559人に上ると言われる。(Wikipedia より引用)

映画「戦争と平和」(他バージョン)

これほどの大作のため、映画やドラマなども多数製作されています。

『戦争と平和』(1915年、ロシア映画)
監督:ウラジミール・ガルディン
1918年ごろフィルムが消失し、現在は見る事が出来ない。

『戦争と平和』(1956年、米映画・伊映画)
監督:キング・ヴィダー、出演:オードリー・ヘプバーン、ヘンリー・フォンダ、ジェレミー・ブレット、メル・ファーラー、ハーバート・ロム、音楽:ニーノ・ロータ

テレビドラマ『戦争と平和』(1972年、英国放送協会製作)
全20話。出演:アンソニー・ホプキンス(ピエール)、アラン・ドビー(アンドレイ)、モラグ・フッド(ナターシャ)。
こちらはVHSしか製作されていないようです。

テレビドラマ『戦争と平和』(2007年、イタリアほか合作)
テレビミニシリーズで全4話(計400分)。
出演:アレクサンダー・ベイヤー(ピエール)、アレッシオ・ボーニ(アンドレイ)、クレマンス・ポエジー(ナターシャ)

テレビドラマ『戦争と平和』(2016年、英国放送協会製作)
テレビミニシリーズで全6話(計330分)。
脚本:アンドリュー・デイビス、演出:トム・ハーパー。
出演:ポール・ダノ(ピエール)、ジェームズ・ノートン(アンドレイ)、リリー・ジェームズ(ナターシャ)、ジャック・ロウデン(ニコライ)、ジェシー・バックリー(マリヤ)、タペンス・ミドルトン(エレン)。

ボンダルチュク監督版「戦争と平和」

さて。今回鑑賞したボンダルチュク監督版の「戦争と平和」。

元は559人もの人生の群像劇として描かれた小説ですが、

原作に対して、ピエール、アンドレイ、ナターシャの3人に絞った構成になっており、他の登場人物のエピソードはかなり削られている。(Wikipediaより引用)。

この製作にかけるソ連の意気込みもすさまじいものがあり、ウィキペディアの次の項目は、何度眺めても想像を絶します。

製作
構想を練ったのは1955年で、実際に製作に入ったのは1960年から、撮影は1962年からで1962年9月7日のボロジノ会戦150周年祭の当日に約12万5000人の軍隊を動員して、ボロジノの現地のロケから始まった。また、製作費は3,260万ルーブル(当時のドル換算で約3,600万ドル・130億円)であった。因みに1960年代当時の映画では「ベンハー」が1,500万ドル(54億円)、「史上最大の作戦」が1,200万ドル(43億円)、「クレオパトラ」が4,000万ドル(154億円)の製作費であった。しかしこの映画には当時のソ連が国家事業[注 9]として製作に全面的に関わっており、公表された製作費以外にも経費がかかったが、ソ連政府の全面的な協力により資金には苦労しなかった。その後の物価の上昇度合いから換算すると、2005年時点の7億ドルに相当し、史上最も製作費のかかった映画とされる。国家事業として製作されたので、戦闘シーンには馬を約1,500頭、合計12万4,533人に及んだエキストラやスタントはソ連軍の兵士を動員することができた特に1812年のボロジノの戦いを再現したシーンは、製作費の三分の一にあたる約1,200万ルーブル(約48億円)を投入して、実際に戦闘が行なわれた場所を用いて撮影されており、撮影に2年、撮影後の編集作業等に1年を要している。なお、戦闘シーンの撮影では映画史上初めて遠隔操作カメラが用いられ、300mの長さのワイヤに添って動くカメラで上空から撮影された。使ったフィルムは513万フィートで映写すれば約760時間。1行でもセリフがある役で559人(原作でも559人が登場する)、重要な役を演じる俳優だけで36人が起用され、登場人員は戦闘シーンのエキストラを含めて延べ59万5,798人で映画史上空前絶後のスケールと言われた。

実際にボロジノの開戦が行われた場所で撮影をするとか、戦闘シーンの撮影に2年、編集に1年とかソ連兵12万人以上を動員とか、鬼気迫る戦争の場面の迫力は、言葉では表現できません。

こんなシーンも、今ならいざ知らず、当時はありとあらゆる機材を総動員しなければ撮影できなかったと思います。

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第4部ではモスクワを放棄して火を放つという、究極の捨て身の作戦でフランス軍に反撃を開始する場面とかも、本当に火を放って撮影したのではないかと思います。

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そしてピエールが農民に化けてフランス兵に逮捕された後の場面でのモスクワに火を放っての殲滅戦の場面。

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そして、冬の訪れに迫られていよいよナポレオン軍がモスクワから撤退する場面。

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そして冬将軍の到来。

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「ナポレオンは偽名を使い、自軍を置いてパリに逃げ帰った」とのナレーションが入りますが、冬将軍には勝てませんね。いくら辞書に「不可能の文字はない」とうそぶいてみても...

馬にのって逃げられた将校や上級の兵士は良かったでしょうが、徒歩で進むしかない兵隊の逃走のシーンは、筆舌に尽くしがたい。

モスクワやペテルブルグに元から住んでいるロシア人なら、冬の寒さがどれほどのもので、何を着なければならないかを知っていることでしょう。ですがそれを体感では知らない人たちは文字通りの「冬将軍」に勝つことができずに負け戦を戦うしかなかったのだろうと思います。

ところで、皮肉なことに、戦争がなったから兵士を映画撮影に投入できたともいえるわけで、映画の製作そのものが「戦争と平和」を別の角度から照射していると言えるかもしれません。

そして最後は平和を取り戻し、ナポレオン軍に破壊されたモスクワの再建と合わせて、ピエールとナターシャの再会の場面、兵士たちのモスクワへの帰還とロシアの春を迎えた自然が写されます。

チャイコフスキーの大序曲1812年は、まさにこの状況を描いた作品として改めて聞くと感慨深いものがあります。

それにしても、12万人以上も動員した作品のエンド・クレジットが「Конец фильма(劇終)」だけとか、あっさり終わったのは驚きました。

登場人物とエキストラの名前をすべてクレジットにのせていたら、果たしてどういうことになっていたか?とは思いますが、せっかくなので記録としても残しておいてあればと思いました。

ちなみに、ボンダルチュク監督版の「戦争と平和」は、こちらの記事でも書いています様に、アメリカのAmazonからRUSCICO版を買った方が安いですし、ちゃんと日本語字幕がついたものが購入できます。

もしこの機会に購入をお考えなら、こちらからをお勧めします。

派生作品

上述した映画やテレビドラマの他にも以下に挙げた様にバレエやミュージカル作品になっています。

まずはプロコフィエフ夫妻によるオペラ。ブルーレイも販売されているようです。

オペラ『戦争と平和』Op.91(5幕10場とエピローグ)
作曲:セルゲイ・プロコフィエフ (1941年 - 1942年、最終版1952年)、台本:原作によりプロコフィエフ夫妻

宝塚も舞台化したようです。

宝塚歌劇星組公演『戦争と平和』(1988年)

残念ながらこちらはDVDやブルーレイにはなっていないようですが、CDは販売されていました。

この他に2014年2月7日ソチオリンピックの開会式で上演されたバレエ『戦争と平和』「ナターシャ初めての舞踏会」ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』というのもあります。

両方ともDVDやブルーレイは見つかりませんでしたが、後者については書籍は日本でも入手できるようです。

ちなみに、ナターシャ、ピエールと1812年の大彗星とは1811年から1812年に現れたハレー彗星のことで、小説やこの映画の第2部でも登場しますが、こんな背景があったようです。

「戦争と平和」に「1811年の彗星」というのが出てくる。映画では、前半の最後のところでロシアの大きな空に長い尾をたなびかせ、後半のナポレオンのロシア遠征を予感させる壮大な効果を出している。この彗星が出現したのは、1811年3月25日で、ナポレオンがロシアに侵攻を始める1812年6月の1年以上前であった。ナポレオンは、この彗星出現を自分の戦勝の予兆と見て、東ヨーロッパとロシアに侵攻したという。

このことを題材にして作られたミュージカルのようですね。日本でも上演されたようですが、アメリカでもDVD化されなかったのは残念です。

ロシア文化について

このタイミングはたまたま偶然に一致したものですが、2021年7月31日に、「ナターシャの踊り」という本が上下巻のセットで発売されました。

オーランドー・ファイジズ著の翻訳本(翻訳は鳥山祐介先生、 巽由樹子先生、中野幸男先生)です。

副題が「ロシア文化史」とありますように、ロシアの文化を取り上げた本です。

タイトルである「ナターシャの踊り」はこの小説に登場する一場面からとられたものです。映画でも第2部でとても素晴らしく映像化されています。

ページ内では閲覧できないようですがYouTubeでご覧ください。

この書籍もとりあえずは買っておこうかなと思います。


チャイコフスキー - 大序曲《1812年》Op.49

これだけの戦争に打ち勝った後、チャイコフスキーが「大序曲 1812年」を作曲したのは当然だったことでしょう。

カラヤン指揮、ベルリンフィルの演奏のものを添付しておきたいと思います。

物語りも重厚なものですし、映像自体がまねのできない迫力で製作されておりました。

時間も膨大ですし、万人にお勧めという作品ではないかもしれませんが、満足のいく作品でした。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


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