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減るもんじゃなし

 時々行く某温泉は、アルカリ性単純泉で、入ると肌がツルツルします。ph9.4なので、強めのアルカリ。

 肌に湿疹ができた時に行くと、2,3回で改善するので個人的には名湯だと思うのですが、メディアでは取り上げられたことが無いように思います。

 さて、温泉でさっぱりして脱衣所で着替えていたら、中学生の集団が入ってきました。が、その集団はいつまでたっても服を脱ぐ気配がありません。
 その子たちは相手の脱ぐ様子をうかがっているんですね。

 はい、僕もそういう時期ありました。思春期特有のアレです。男同士とはいっても、身体の細部はびみょーに違うもの。

 自分の中学時代を思い出すと、両方の乳輪がぷくっ、と出てきて、友達にからかわれたことがありました。触ると少し痛いんですね。
 当時は僕だけヘンなのかな、と思ってすごく気にしてたんですが、クラスにもう一人乳輪ぷっくり仲間がいて、ホッと胸をなでおろしたことを思い出します。

 上半身でさえそのような状態ですから、下半身ともなるとそりゃもう個人差が出るものです。
 脱ぐことをためらう思春期男子の気持ちは痛いほどよくわかります。

 さて、中学生たちは、腰にタオルを巻いてパンツを脱ぎ始めます。しかしそれも一時しのぎでしょう。いずれにせよ湯船では、全裸にならねばなりません。
 どうするのだっ!?

 その時、中学生集団に、奇跡が舞い降りました。
 一人の中学生の腰に巻いたタオルが、はらりと床に落ちたのです。

 やいのやいのにぎやかな会話がぷっくり途切れます。

 僕は祈りました。(その子をからかうことだけは、やめてくれっ!……)

 しかしその子は、他の子が口を開くその前に、
「減るもんじゃなし……」と、言いました。

 別の子が、「そっそうだよな、どうせお湯に入ればタオル取るんだし」と、受けます。

 やっと気がついてくれました。

 その時生まれた雰囲気は、風呂場に流れる湯気のように温かく、中学生集団を包み込んでゆきます。

 はらり、はらり……

 次々とタオルを取る中学生たち。そしてみな、お風呂場へと消えてゆきました。

※※※

 『減るもんじゃなし……』

 男性が嫌がる女性に対し、促すときに使う品の無い言葉のイメージがあります。

 男だけの温泉の脱衣所で、男の子が自己フォローで使い、それが良い影響力を持ってみんなに広がる。

(そのような使い方もあったのだ)妙な感動に包まれつつ外に出ると、本降りだった雨は、雨音のしない優しい霧雨へとかわっていました。

「減るもんじゃなし……」
 霧雨に呟いてみます。

「うーん、やっぱりお代官様と村娘のやり取りを想像してしまう」

 もうあのころには戻れないのだと、少しの寂しさを感じた温泉タイムでありました。

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