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母の文集

日記つながりでもう一つ。


私の母は文章を書くのが好きで、実家には母が書いた日記がたくさんある。
母が10代の頃書いていた日記や、私のために書き・残してくれた、私の幼少期の記録日記など、どれも個人的な内容のものだったけれど何冊もある。
小学生の頃、実家の本棚で母が書いた幼い私の日記を見つけたときはなんと嬉しかったことか!
日記の内容も、とてもユーモラスな表現で書かれているものが多く読んでて楽しい日記だった。


とにかく書くことが大好きな母は、宿題で出された作文のサポートをしてくれることもある。


確か小学校6年生の頃だった。全校生徒が自由なテーマで書いた文章を集めた文集用の作文をしなさいという宿題。
アイデアが特になかった私はいつものようにサポートを頼んだ。

「おかん、作文手伝って!」
「ええよ〜、なんの作文?….文集ね、はいはい….じゃあ〜」

といった感じで母からテーマが降ってくる。
降ってきたテーマを頼りに文章を考え鉛筆で原稿用紙に書いていくのだけれど、このとき母から降りてきたテーマは「将来の夢」だった。

当時近所の少年ラグビークラブに所属していて、ラグビーに夢中になっていた捕虜少年は、スポーツ少年にありがちなそのとき熱中しているスポーツのプロになりたいと思っていた。
ただ、そこまで本気でラグビークラブで頑張っていたわけでもないので将来の夢が「ラグビー選手」だと言うのが恥ずかしかった。

「将来ラグビー選手になりたいです。」
という一文が恥ずかしくてなかなか書けない私に母は、

「将来の夢ないの!?大変やなぁ…..じゃあ、ジャーナリストと書きなさい」

と、テーマだけでなく具体例の捻出までサポートしてくれたのだ。


ジャーナリストという職業が正直何を指しているのか全然ピンときていなかったが、言葉の響きに何か知性めいたかっこよさを感じた私は、母の案を採用した。

そこでまた新たな問題が発生してしまう。

…そう、ジャーナリストがなんのことだか全くわかっていないため派生させることができないのである。
私は「ジャーナリストってなんや….!!」と必死に頭を回転させて過去にテレビや読んだ本などで「ジャーナリスト」という文言を見かけた記憶がないかどうか思い出そうとした。

なかなか筆が進まない私を見かねた母は、家事をしながら、書き出しの文章やその続きを考えてくれたのである。

母に言われるまま、母の書記官として、最後まで書き切った私の作文は、

・将来の夢はジャーナリスト
・今のうちにたくさん本を読み知識をつける
・青山学院大学に入学し、カメラを持ち世界を旅して知見を深める。
・新聞社に入社して社会欄の記事を担当する。
・新聞記者として数冊本を出版する。
・最終目標として、独立後は報道ステーションに「ジャーナリスト」と言う肩書きでコメンテーターとして出演する。

と言う内容に仕上がった。(うろ覚えですが…)

とにかく小学生にしては内容が濃すぎる作文だったと記憶している。
上位層の小学生ならまだこう言う内容を書きそうではあるが、私みたいな平凡な小学生が想像して書くような文章ではない。
報道ステーションに出演することが最終目標の小学生がいるだろうか。
私が書いたものではないとバレやしないだろうか?

そこまで深く考えることもなかった私(と母)は、完成した作文を提出し、全校生徒の文集に掲載されたのである。

ただその心配は杞憂に終わった。

学年で一番ユーモラスで人気のあったS君が書いた作文、いた作品が大バズりしたのである。

「吾輩は猫である」を模して、黒板視点でクラスのみんなの日常を描写した作品、「吾輩は黒板である」

小学生ながらS君の作品を読んだときは「負けた〜!!」と思った。
自分で作文を書いてもないのに悔しく感じたのである。

ちなみに母もS君の作品を読んで、
「負けたー!!」
と笑っていた。


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