見出し画像

【SEL勉強会】自治体と協働し、全小中学校へSELを導入。その取り組みの道のりと展望

rokuyouは、SELを広げ学校現場をより良くしていくために、共に考え、実践し、共有し、学び合い、時には一緒に取り組めるような仲間をつくるために「学びの場」作りが必要だと考えて、「SEL勉強会」を開催しています。
記事の最後には、SEL勉強会会員募集のご案内をさせていただきます。どうぞご覧ください!

本記事では、「SEL勉強会」の中でお伝えさせていただいたrokuyouが取り組んでいる、とある自治体におけるSEL導入事例を紹介させていただきます。多くの学校現場でも活かせるようなヒントにつながると嬉しいです。なお、当自治体では現在進行形で取り組みを進めているため、今回の報告内容が完成版というわけではありません。これから一層のアップデートを図っていくために、”現在地”を確認する目的も兼ねて、代表・下向から取り組みをお伝えをさせていただきたいと考えています。

SELを軸にした協働事業にご興味を持っていただいた、自治体や学校関係者の皆様からのご感想・ご連絡お待ちしております!

SELの広がりと可能性

私がアメリカの大学院でSELに出会ったのが2014年のこと。2015年に日本に帰国し、SELを日本で広めようと活動をスタートしました。張り切って30名程の教育関係者の方々にお話をしたのですが、「アメリカではそんなことになっているんだね。すごいですね」と返されて、全く響いていない感覚をありありと感じました。他人事で実践にまでつなげていこうとする気配のない、あの時の、寂しくて虚しかった思いは忘れられません。

その頃の日本では、インターネットで「SEL」と検索してもほとんどヒットしないという状況でした。最近では1万件ぐらいヒットするようになったので、10年弱でその注目度は大きく変わったと感じています。

SELが広がっていく間に、私が取り組んできたことは、公立学校や通信制高校でのWell-Beingな学校作りや書籍『21世紀の教育』の刊行などです。そして、取り組みを進める中で、現場の先生方からたくさんのお話を聞かせていただいてきました。その実践の1つが、とある自治体の全小中学校へのSEL導入事業です。

全小中学校へのSEL導入の背景

SEL導入事業をがスタートした自治体は、不登校が多いエリアで、校内においても子どもたちの対人関係トラブルが課題となっていました。

そこで2年半前から、「子どもたちを取り巻く環境の改善に向け、まさに、今、SELが必要である」という自治体の方向性が定められ、rokuyouとの協働がスタート。現在では、全小中学校にSELが導入されています。

rokuyouでは具体的な取り組みを行う前に、その自治体の学校が抱える課題の具体化に着手。その解決に向けた仮説を立案した上で、実行に移していきました。

学校が抱える課題設定と仮説の立案

私たちがヒアリングの中で整理した当自治体の学校が抱える課題は下記の通りでした。 

【課題】
①学びの環境整備
②教員の関係性
③生徒間トラブル
④生徒たちの主体性の欠如

こういった課題に対し、私たちは下記の3つの仮説を立て取り組んでいきました。

SELをベースとした対話の手法や機会を提供することで、教員間の信頼関係を醸成する。
② 教員の関係性が変化することで、生徒間でも対話文化が生まれ、生徒の自己理解、他者理解が深まり、関係性を向上させる。
③生徒が「自分たちの手で自分たちの環境を良くする」アイデアを出し、行動することで、主体性と自己肯定感を養う。

教員研修と互見授業の実践

以上の仮説に基づいて、当じちたいではブロックごとに教員研修を実施しています。

1年目は「SELとは何か」からスタートし、どのように授業展開ができるかといったことをお伝えしていきました。SELを体現することで、教員間の関係性にも良い影響が出てきてほしいと考えました。

さらに、「先生方の関係性構築の欠如」という課題に対して「SELをベースとした対話の手法や機会を先生に共有することで、先生同士の信頼関係が生まれるのではないか」という仮説のもと、NVCの理論を基にしたエンパシーサークルという手法を紹介。対話を推進するカードをお配りしました。エンパシーサークルとはグランドルールのもと、自分のエピソードを話し、周囲がそれをノンジャッチで共感を持って傾聴するというワークです。

2年目からは先生方が試行錯誤しながらSELを学校現場で実践します。「年10コマ実施する」という方針のもと、意欲的に取り組んでいる先生方が主軸となって公開授業が開催されています。授業を見にきた他のブロックの先生方からも、 コメントやディスカッションがなされ、さらに理解が深まっていきました。

また、当自治体において比較的規模の大きな学校を対象に「リーダー研修」を実施。そこには、「リーダー」として、部活動の部長や生徒会に入っている子どもなどが集まりました。

「生徒たちの主体性の欠如」という課題に対して、「生徒が自分たちの手で自分たちの環境を良くするアイデアを出して行動することで、生徒たちの主体性と自己肯定感が養われるのではないか」という仮説を立案。その仮説に対する取り組みとして、「学校の中で心地の良い環境を自分たちで作ろう」というお題で、「Mission for Fun!」というワークを行いました。「Mission for Fun!」とは、お題に従ってチームで企画を作成し、実行するワークのこと。自分の内面にフォーカスを当てて、興味関心のあることや自身の「好き」に向き合います。

実際に、学校の中に映えスポットを作るために学校に許可をもらい校舎に作品を描いたり、校長先生とジェンガをしながら話し合いをしたりしました。このように生徒たちが主体的に動いた結果、たくさんの面白い活動が生まれていきました。

学校の変容による成果

①生徒たちへのポジティブな声かけや雰囲気が実現されている
校内でポジティブな声かけが増えていきました。もちろん、簡単に叱責やネガティブな声掛けがゼロになるわけではありませんが、確実な変化を感じています。今後は、不登校数の推移など定量的な変化も追っていきたいと考えています。

②教員間での連携と教員と生徒との対話が生まれてきている
少しずつですが教員間の連携が生まれてきています。その結果、生徒たちに対しても対話の姿勢を習慣化できるようになりました。rokuyouがお配りした対話を促進するカードを学年の特徴に合わせて改良し、ガイドも作成した先生も登場しました。こうした積み重ねにより、生徒たちと日常的にSELをベースとした対話の取り組みがなされるようになっています。

③生徒の挑戦を歓迎する雰囲気が生まれつつある
生徒の挑戦を認めたり背中を押したりする雰囲気が先生方の中で根付きつつあります。

本格的にこの学校でSELが導入されて、正直、こんなにも早く、先生方が生徒たちの成長を見守り、挑戦を歓迎していく姿勢に変容していくとは想定していませんでした。こうしたスピーディな変化は実現したのは、これまでも先生方が確固たる生徒への思いを持ち続けてきたからではないかと考えています。「こういう学びがあったらいいよね」「こんなふうに生徒たちが声を出して挑戦できる余白があるといいよね」とは感じていたけれど、なかなかその機会を作れない状況があったのではないかと思います。つまり、先生たちは生徒たちへ強い思いは抱いていたけれど、実行する機会や取り組もうと言い出せるような場がなかった。そのため、今回の機会を上手に活かしていただけたのではないかと考えています。

今後の課題とアクション

今後の課題とアクションは次の3つであると考えています。

①全生徒が主体的に行動する、挑戦する機会が得られていない
リーダー研修でアプローチできた10%程度の子たちへは、主体的に行動する機会を作ることができました。しかし、学校全体で生徒全員がその機会を持てるような機会を設定できていません。SELを教科横断的に落とし込み、子どもたち全員が関わる機会の創出が必要だと考えています。

②SELの学びがイベント的になっている
日常的な授業においてSELを落とし込むまでに至っていないため、SELの時間やワークショップがイベント的になってしまっています。SELが日常にどう組み入れていくか検討を進めます。

③うまくデータをとれていない
どのような指標でデータをとるかを検討し、定量的な変化を測定する施策を取る必要があると考えています。学校がより良い方向に進んでいくためにどういったデータが必要なのか、学校とのコンセンサスをとっていきたいです。

【SEL勉強会参加者との対話】日常にSELをどう落とし込んでいくか

勉強会では、参加者の皆様と「日常にSELをどのように落とし込んでいけるのか?」という問いについて話し合いました。

参加者A:
私も教育活動のいろいろな場面でSELを取り入れています。その中で、rokuyouと同様に持続的に定着させていくことが課題だと感じています。SELは新しい言葉で、新しい概念だと捉えている人も多いですよね。しかし、今までやってきたことがSELの考え方に当てはまるとこもあると思うのです。やってきたことを振り返り、アップデートして実践していく。そういった思いで関わる教員が増えていけば、様々な場面で実践できると思うので、その点に注力していきたいと思っています。

参加者B:
「関わる大人が変われば子どもは変わる」と考えています。その思いから、みんなで話し合って、SELを先生たちに経験してもらうことを重視しています。対話を中心とした教員研修を年に3回、6日間組んで先生たちと実施します。

どうしてもイベント的になる部分はあるので、研修が終わった後、先生たちがどう子どもたちに声をかけるのか、どういう言葉を使うのかといったところがポイントだと思っています。

生徒の方へのアプローチとしては、「ドライビングクエスチョン」というものを決めています。年度はじめに、こうあってほしいという子どもたちの姿を先生方みんなで話し合い、ドライビングクエスチョンを1つ設定する。そのクエスチョンをどんな行事でも繰り返していきます。そして、子どもたちは感情を中心に自分を見つめ直します。「プルチックの感情の輪」を用いて、 「今、どの感情にありますか」「それはなぜですか」「じゃあ、ドライビングクエスチョンに答えましょう」というような問いかけを行っていくのです。教員が同じ問いを続けていくことで子どもたちが自覚的になっていき、自分自身の感情や思いを身体的に捉えていけるよう仕掛けています。

下向:
ドライビングクエスチョンとは、どういうものがありますか。

参加者B:
現在のテーマは、「自分のコンフォートゾーンからの一歩」というものです。例えば、「自分のコンフォートゾーンはなんですか」「その一歩を飛び出した時に、どういうことが起きましたか」。また、「どんな感情が起きましたか」「その時に自分が作り出した影響と、他者に作り出した影響を書きましょう」といった問いを投げかけます。始めは自己に目を向けることを繰り返し、自己から他者、コミュニティへと気づきの範囲を広げていきます。

下向:
大人は、自分のコミュニケーションスタイルに自覚的ではない方々が多いです。例えば、決め付けなど押し付けのコミュニケーションを生徒や他の先生に対してとっていることに、意外と気づいてはいません。しかし、そこに自覚的になったら相手に対してネガティブなインパクトがあることに気づき、そこからかなり早いスピードで変容していくことができます。

そのため今では、先生方に、自分がどんなコミュニケーションをしていて、相手にどういう影響があるのか、またコミュニティに対してどういう影響があるのかということに気づいてもらう機会を持つことは重要だという思うに至っています。

おわりに

本記事では、rokuyouが行っている、自治体と協働したSEL導入事例を紹介しました。成果や変容が見えてくる一方で、新たな課題も生じています。その解決に向けて、学校と協働しながら一歩一歩階段を上がっていきたいと考えています。

今回の勉強会や記事が多くの教育関係者の方の参考になりましたら幸いです。とはいえ、子どもたちや先生、地域の状況によってそれぞれの学校の様子は大きく異なります。そのため、全く同じ方法で取り組むことは難しいですし、仮に行ったとしてもうまくいかないこともあるでしょう。

そこで、全国のたくさんの方々の経験値や思いを共有し、学び合う機会として、rokuyouではSEL勉強会(3週間に1回程度で約75分)を実施しています。本勉強会にご関心のある方は、下記のメールアドレスよりお問合せください。改めて、担当者よりお返事をいたします。皆様のご参加、お待ちしております!

お問い合わせ : info@roku-you.co

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?