公開SEL勉強会「世界のSELの普及を見てみよう!」
今回は、世界でどのようにSELが活用されているのかを知るために、ハワイの事例を題材にしながら、参加者と対話をしていきました。
それぞれが担当のパートを読み、要約して伝えるアクティブ・ブック・ダイアローグ®という手法を採用。短時間で、全員で協力しながら、読み進めていきました。チャプターごとに担当者を決め、最後に参加者全員で感想や疑問について対話しました。
■使用したガイドブックの紹介
現在私たちは、沖縄県うるま市の自治体と共にSELを推進しています。不登校やいじめといった課題解決のために、2年前からSELが採用され、全小中学校で導入がされています。どうやって行政がリーダーシップをとっていくか、あるいは先生たちがSELを理解するだけではなくていかに体現していくのか。こうしたハードルを乗り越えていくには、対話や振り返りを通じて、それぞれの立場の方が自身の気持ちをシェアすることが欠かせません。
そのあたりを『HIDOE School Social and Emotional Learning Guide』というハワイで活用されているガイドブックを使って学んでいきます。
ハワイはSELの最先端地域というわけではありません。発展途上ではありますが、ローカルの言語に置き換えられていたり、ローカルの視点で語られていたりする中で、ユニークでおもしろいと思いました。特に、沖縄という場所に落とし込むと、参考になることが多いと感じたのでこの資料を選びました。
このガイドブックは、ハワイの州の教育庁が刊行しているSELのガイドブックで、大きく分けて5つのパートで構成されています。
■それぞれのパートのシェア
part1. SELとは何か、なぜ必要なのか
単一プログラムやフレームワークではなく、社会的・感情的なスキルを指す包括的な概念と記載があった。
SELの指すスキルとは生涯を通して培われていくものであり、社会や家庭の成功といわれるものに不可欠である。
時間をかけて育むもので、短期的に効果があらわれるものではないと解釈した。
個人と共同体の絡み合った関係性から生まれるものと書いてあり、そこが社会性に繋がってくるのだろうと思った。
子どもたちの力で気づきを得る、よりよい方向に持っていくというのは、自発的にできるように教員が環境を作るのではなく、子どもたち自身でその環境を作れるようにマネジメントしていくことが求められると思った。
part2. なぜSELを導入するのか(SELを必要としている理由)、学校の中で誰がどのような役割を持って、どのようにイニシアティブをとるか
「信念をつくる」「チームをつくる」の2構成になっている。
信念をつくるには「we,why」と書いてあった。利害関係者を見渡した上で、私たちは誰なのかを考える。なぜこれが大事なのかを考える。
パーパスにはコレクティブパーパスとシェアードパーパスの2つがある。単一目標ではなく、目標群のような表現がなされていた。目標を一つに決め切るのではなくて、柔軟性や振れ幅を許容するという意味で、「群」という言葉を使っているのかもしれない。
チームでは、well-beingや心理的安全性という言葉が出てきた。組織論として取り上げられるようなことが書いてある。
何がSELにとってより特徴的なのか、大事なのか。マニュアル通り実施できたら、みんなすぐにできてしまっているはずだが、それではうまくはいかず、実際導入においての工夫や、どのように躓くのかをもっと知りたくなった。
HAが出発点であり、着地点であるという表現があった。「HA」とは?
part3. SELを体現するために自分たちの学校で使えるリソースは何かを明らかにしていくためのプロセスや支援
学校や家庭で包括的に進めていくことが大事。
学校の中で連携するのが大事。
信念を特定して理解しておく、何が譲れないのかを共有しておく。
包括的にSELの環境を構築していく。その中で一貫性を持たせることが大事。
part4. 具体的なアプローチを考える
実際どうやってやっていくのかのフレームワークの紹介やコツ、心構えが記載されていた。
印象に残ったのは、目標を最初に考えることや、具体的に考えさせるような質問が多かったこと。「いい感じになったらいいよね」ではなく、具体的にどうなったらいいのかを導入する学校がイメージできることが大事なのではないかと思った。後半には、教員や教室の雰囲気がいいことが欠かせないとも書かれていた。まずは、SELを理解して目標を持って向かっていくことが重要である。生徒が変わるための土壌を作ってシステムの中に入れていくという考えが求められるのではないかと感じた。
学校側が実際に導入する際に、質問(フレームワーク)にそって考えていくことで、漠然としたものが具体化・整理されるので実行可能なものに思えてくると思った。
part5. 成果評価(振り返り)、アクションアップデート
生徒達に関わる、実装して評価して終わりではなくサイクルになっているという考え方がおもしろかった。
階層ごとにサポートを用意しておくことが求められる。アンケートだけではなく、モニターで定性的に見守る。個別に面談も重要。これらを一体となってやることの概念(ユニバーサルSELスクリーニング)を学んだ。日本の教育現場には一体感がないように思う。取り組みをして振り返って評価しておしまいのパターンが多い。
ガイドブック全体において、how toは載せていない。ツールのありかを示したり、自分たちで良いと思うものを選んでくださいというスタンス。「こうした視点で選ぶといいよ」という示し方がなされている。アメリカは無料でアクセスできるツールがたくさんあり、選ぶことができるからこそ、こうした示し方がなされているのかもしれないと思った。
具体的なものを渡すよりも、大きな指針を渡す方が、先生たちが自分たちの状況を鑑みるためにはすごく重要なことだと思った。
おわりに
勉強会の感想として、
「アプローチでもプログラムでもなく、根底的に学校の風土を作っていくことや、色々なことの土台を作ることが求められると思うので、体力をつけて学校や先生のあり方や関係性をアップデートしていくということが必要だと思いました。既存の教育に足すのではなくリプレイスする、入れ替えるようなイメージを持つことが大切なのではないでしょうか」
「先生たちへは『なぜやるのか』の問いと、生徒たちには『適切なテーマ選び』『今どういうことについて学ぶのか』『そのための評価やスクリーニングの活用があるのではないか』ということが大切だということ印象に残りました」
といった声が聞かれました。
今回は、世界でどのようにSELが活用されているのかを知るために、ハワイの事例を題材にしました。参加者とともに一冊の本から様々な疑問や対話が生まれ、深い学びにつながる時間となりました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?