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初めての東京(居酒屋)

初めて上京した。

上京する直前、祖母に言われた。

「東京には悪い人がいる」

「置き引きは日常茶飯事」

「田舎者は狙われる」

「田舎に帰ってこない人もいる」

アルコールを飲める年齢になっていた。

「東京の居酒屋」に入ってみたかった。

とりあえず入った。

どこだったか覚えていない。

ビールを注文した。

瓶ビールとガラスコップが出てきた。

ジョッキではない。

タバコの煙で蒸せそうである。

換気は特段に悪い。

旅人への視線が厳しい。

話し声から、誰かの愚痴が聞こえる。

普段着の人が多い。

落ち着かないので、出ることにした。

店員さんに支払いをしたいと伝えた。

店員さんには、私の言葉が通じない?

店の大将らしき人が出てきた。

ボコボコにされると覚悟を決めた。

「お金はいらん」

「?」

怯えた。

「故郷は?」

「?」

田舎まで取り立てに来るのかと怯えた。

「泊まるところは?」

「?」

もうダメだと思った。

「お金は?」

「?」

身ぐるみ剥がれると観念した。

大将はウッスラと笑っている。

膝がガクガクした。

大将が懐に手を入れた。

顎がガタガタ鳴りそうだった。

「○△€$‘>#%…」

大将の言葉がわからない。

手と一緒に財布が出てきた。

千円札を3枚、素早く手渡された。

「気をつけてな」

「?」

「無理するな」

「?」

「行きな」

「?」

「行きな」

「………ありがとうございます」

消え入りそうな声で答えた。

荷物を抱え、店を飛び出した。

飲んだビールを戻しそうになる程、私は走った。

後ろを振り返らなかった。

今にして思えば、見すぼらしい格好に同情されたと思う。

夜行列車で上京し、暑い中、汗びっしょりだったのだから無理もない。

大将の優しさを思い出すと心が暖かくなる。

祖母の心配は何だったろうと偶に思い出すq

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