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調査からイノベーションは生まれない

[要旨]

マーケティング活動の最初の手順は市場調査ですが、市場調査はマーケティング活動の目的に合ったものを行わなければ意味はありません。例えば、これまだになかった商品サービスを生み出すための調査である場合、エクストリームユーザーや、まったく利用しない人の両極端の人たちを対象に調査しなければなりません。

[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。鈴木さんによれば、マーケティング活動の手順は、市場調査→STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)→マーケティング・ミックス(商品・価格・流通・販売促進)→実行→統制ということです。そして、この手順の最初の市場調査について、鈴木さんは、目的を明確にして行わなければならないということをご指摘しておられます。

「これまだになかった商品サービスを生み出すための調査である場合、従来のアンケートやインタビューによる調査は、ほとんど役にたちません。ウォークマンを世に出したソニーの盛田昭夫も、iPhoneを生み出したAppleのスティーブ・ジョブズも、そうした調査をあてにしていませんでした。ホンダを創業した本田宗一郎も、「市場調査と女心はあてにならん」と言っていました。ネスレ日本の高岡浩三は、『調査でわかるようなことは誰でもできる、調査からイノベーションは生まれない』と、言い切ります。

まだ世の中に存在しない商品サービスに関して、いきなり顧客にきいてみてもわかるはずがありません。自動車が登場する前には、もっと速い馬が欲しいという答えしか得られません。実際に発売されてみて、初めて自動車が欲しかったのだということになるのです。(中略)観察の対象とするのは、通常行われる平均的な顧客ではなく、『エクストリーム・ユーザー』、すなわち、よく利用するヘビーユーザーと、まったく利用しない人という、両極端の人たちにした方が、多くの気づきを得ることができます。(中略)

例えば、今や国際標準規格にも採用されている絵文字ですが、実は開発者が女子高生を観察していて、携帯電話が普及する前によく使われていたポケットベルの中で、専業の事業者であったテレメッセージの機種ばかりが多用されていることに気づいたことをきっかけに生まれました。その理由が、ハートマークを使えるためだったことから、今度は、NTTドコモが176種類の絵文字を作成して、1999年発売の携帯電話のiモードやポケットベルに搭載してみたところ、一気に使われるようになったのです」(76ページ)

ちなみに、エクストリームユーザーの調査を活用した事例には、自動車メーカーのスズキが、ハスラーにユーティリティナット(多目的用途のネジ穴)を付けたというものがあります。同社では、エクストリームユーザーが、車内に荷物を整理するための棚を作るために、壁にねじの穴を開けているということを知り、ハスラーにユーティリティナットをつけるようにしたこで、ハスラーの人気が高まったそうです。

今回は、エクストリームユーザーへの調査による商品開発の事例を取り上げましたが、マーケティング活動における調査は、単に、統計的なデータをとればよいということではなく、目的を明確にし、それに合わせた調査を行うことが大切ということです。ある意味、的確な市場調査を行うことができるかどうかも、効果的なマーケティングを実践するための重要な要素となっているといえるでしょう。

2023/2/27 No.2266

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