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傾聴で部下のモチベーションを高める

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、同社の権限委譲が奏功し、好業績が続いている要因は、管理職の方たちが、定期的にパート従業員の話を傾聴するようにしているからだそうです。その際、管理職の方はパート従業員の方を褒めることに徹することで、パート従業員の方たちはモチベーションがとても高まり、好業績につながるそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安田さんによれば、会社経営に求められる真の能力は、組織を動かす力、人を動かす力であり、単なるスキルや勤勉さなどではないということですが、それは、小売業は個人戦ではなく団体戦、すなわち、チームワークによるパワーの総量を競う戦いだからであり、そのためのチームをまとめあげていくリーダーの力量が問われるからだということについて説明しました。

これに続いて、安田さんは、ドン・キホーテで権限委譲が奏功している要因のひとつについて述べておられます。「当社のメイト(ドン・キホーテの正社員意外のパート、アルバイト従業員のこと)さんは、総勢約8万人という巨大な規模でありながら、どうしてそんな『権限委譲』が可能になるのだろうか。その答えは、当社社員がメイトさんたちと心と心がつながるコミュニケーションを最重視し、彼ら彼女らのこことの襞(ひだ)とも言うべきものにまで、全面的な配慮と信頼を寄せ、文字通り性善説に基づく権限委譲を行っているからである。

それにより、時間給の多寡とはまた違う、メイトさんたちのモチベーションと誇りを最大限に高め、彼ら彼女らの前向きな承認欲求を叶える仕組みをつくれているということになる。これこそが、これまで誰も言わなかったドン・キホーテの真の強さの秘密であり、前述した個性の本質でもある。ちなみに当社では、支社長などの幹部社員や現場の管理職社員が、定期的にメイトさんたちとの『対話集会』を開催している。

『対話集会』と銘打っているが、基本的に社員は聞き役に徹する『傾聴の会』というのが実態である。この会では、メイトさんたちに現場での不満や要求も含めて、それこそ好き勝手なことを言ってもらう。社員は疲労困憊するそうだが、とにかく喋らせて誉める、惜しみなく誉めるのだ。人は認められれば、それに応えようとするが、これを『返報性の法則』というらしい。逆に、『ここが足りない』などと叱られたら、やる気を失ってしまうだろう。

だから、足りているところを十二分に評価してあげるのがポイントだ。話を聞いて誉めることで、メイトさんたちのモチベーションは急上昇し、先頭モードも高まることになる。彼ら彼女らが一丸となって、『フォア・ザ・チーム』の結束もますます硬くなり、善循環と上昇スパイラルが発生する。こうした状況を維持するのが、当社の現場リーダーに求められる最大の資質である」(210ページ)

管理職の従業員が、パート従業員の話を傾聴することで、モチベーションを高めるという安田さんのご指摘も、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、多くの経営者の方は、「日常の目の前のことで手一杯で、パート従業員の方の話を聴く余裕はないし、そのようなことのために、パート従業員に時給を払うことも非効率だ」と考えるのではないでしょうか?

しかし、安田さんが、ドン・キホーテで権限委譲が奏功している理由は、「傾聴の会」を開いていることだとご指摘している以上、権限委譲を奏功させたい、すなわち、自社の業績を向上させたいと考えている経営者の方は、この安田さんの経験から導かれた手法を倣うしかないと思います。ところで、私は、この安田さんのご指摘を読んで、東京都立川市にあり、精密位置決めセンサーを製造している、メトロールという会社で行われている「対話研修」を思い出しました。

対話研修とは、1人の社員が年間を通じて全社員(2023年5月現在、同社の社員は118人いるそうです)と1時間ずつ雑談をするというもので、その研修中は勤務時間として賃金が支払われるそうです。ちなみに、私は同社の業績の詳細は把握していませんが、同社の技術力は高く、世界74か国、3,000社と取引があり、売上の43%は海外との取引によるものであるなど、中小企業でありながら、注目されるグローバル企業のようです。

また、同社は、令和5年に、日刊工業新聞社「第40回優秀経営者顕彰最優秀経営者賞」を受賞するなど、これまで多くの表彰を受けています。そして、こういった技術面での競争力が高い会社が、「対話研修」という人間くさい研修を重視していることは、とても意外でした。しかし、安田さんのご指摘を勘案すれば、これからの会社は、こういった従業員の方を重視すること以外に、業績を高める方法はないのではないかと、私は考えています。

2024/9/6 No.2823

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