管理会計はマネジメントを適切にする
[要旨]
管理会計は、経営者が適切な経営判断を行うためのツールですが、多くの会社では、財務会計を中心に記録が行われており、管理会計を活用するための情報を得る仕組みが十分ではないようです。そこで、業績を高めるためには、管理会計を活用するための体制を整えることが重要です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営共創基盤CEOの冨山和彦さんのご著書、「IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、単品管理を行うための仕組みがないと、正確な事業改善策を実践できないものの、その仕組みを構築するためには労力がかかるため、大企業でも導入されていない会社があることから、その壁を乗り越えることが、業績改善の鍵になるということを述べました。冨山さんは、それに続いて、単品管理を行うための管理会計の重要性について述べておられます。
「管理会計とは、経営トップ層や現場の管理者が、その情報をもとに、さまざまな意思決定、軌道修正、業績モニタリング、業績評価などに使うことを目的としている。そのため、財務会計とは、そもそもの目的が明らかに異なる。財務会計が、“Financial Accounting”と英語表記されるのに対して、管理会計は、“Managerial Accounting”、“Management Accounting”、“Accounting for Control”などと呼ばれる。管理会計と言われてもよくわからない方でも、英語だとクリアに違いがわかる。管理会計は、企業、事業のマネジメントを適切にすることを目的にするツールなのである。
まず、管理会計では、マネジメントすべき単位で、数値データが分かれていないと意味がない。事業別、製品群別、地域別など、マネジメントをする側の区分と合致しているか、という観点である。開発から上市(製品を市場に出すこと)、モデルチェンジまでの期間の投資回収を見たいのであれば、その時間軸での投資回収状況をみないといけない。製品の真の利益を知りたいのに、製造子会社、販売会社別の集計になってたら、ピンとこない。これが、会社の単位を基本とする財務会計との大きな違いのひとつである。空間軸と時間軸で、マネジメント単位に合わせることが重要なのだ」(184ページ)
私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業の経営者の方の多くは、起業するときに、会計に関する情報の収集については、ほとんど体制整備をしていないということです。その理由として考えられることは、経営者の方が、事業活動にしか関心がない、または、事業活動を軌道に乗せるために多くの労力を必要とし、それ以外にはあまり労力をかける余裕がないというものです。そして、経理事務については、会計事務所に任せれば、税務署に確定申告をしてもらえるので、それで十分だと考えてしまう方も少なくないようです。
ただ、経営者の方が、積極的に、経営判断に必要な情報を集めようという姿勢を見せなければ、会計事務所の方も、税務申告に必要最低限のことしかしません。そのような状態でできた決算書では、正しい税務申告が行われたとしても、経営者にとって有益な情報は、あまり得ることができません。では、どうすればよいのかというと、起業して、会社を登記するときに、定款などの内容について司法書士の方などにご相談をするのと同様に、財務情報の収集の体制整備についてもどうすればよいのか、会計事務所や経営コンサルタントに相談することが必要だと思います。
もちろん、起業のときに、財務情報の収集の仕組みをつくることは、より多くの労力が必要になります。でも、それを省いてしまえば、羅針盤を持たずに船で航海に出るようなものです。さらに、後になって必要と感じたときに管理会計を導入しようとすれば、起業したときに導入するときよりも、多くの労力が必要になります。また、かつては、経営環境が追い風の状態のときがあり、起業すれば、ある程度は成功するという時代があり、そのようなときは、管理会計の必要性をあまり感じない時代があったかもしれません。
でも、いまの経営環境は、まったく違い、逆風が吹いているような状況です。そのような中で、より正確な事業活動を営むためには、より正確な情報が必要であり、そうであれば、管理会計が活用できない状態の会社は、早晩、ライバルとの競争に敗れてしまうでしょう。もちろん、体制整備だけでなく経営者の方にも、管理会計を活用して経営判断ができる能力が必要であるということは、言うまでもありません。
2022/9/27 No.2113