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[要旨]

稲盛和夫さんによれば、コカ・コーラは、高価格で販売されていますが、そのことによって得られた利潤を、販売促進費にあてることにより、利益を最大化していると分析しておられます。そして、この事例から、値決めは決して安ければ良いというわけではないと言えるとご説明しておられます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィー」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、役員に登用する従業員には、「商才」を求めるそうですが、その商才とは、最大の成果をもたらす値決めができる能力を指し、その値決めは、単に、製品の価格を決めるだけではなく、製品のスペック、販売場所、販売方法などを総合的に勘案して決めなければならないものであるということを説明しました。これに続いて、稲盛さんは、「値決め」の事例のひとつとして、コカ・コーラの値決めについてご説明しておられます。

「昔、夏祭りなどで、こんな光景を目にしたものです。夜店に大きな氷が置いてあって、その上にコカ・コーラの瓶がいっぱい積み上げられており、若くて元気いっぱいの男性が、『コーラはいかがですか』と言いながら、冷えたコーラを売っている。このように、夜店の人が一生懸命に声をからして売っても、なお、割が合う。ということからだけでも、多額の販売マージンがもらえたのだろうと想像できます。高い値段で売るわけですから、利潤は大きくなります。その利潤の大半を販売促進費に回し、宣伝広告などにも膨大な資金が使えるようにする。

逆に、薄利で売られたラムネやサイダーは、コカ・コーラに匹敵するような宣伝広告もできず、販売インセンティブも捻出できない。そのため、結局、市場から蹴散らされてしまったわけです。つまり、コカ・コーラの戦略は、高い売値ではあるけれども、そこから得られる利益を、販売促進に振り向けていくというもので、これが功を奏したと考えられます。そういう意味では、値決めとは、高いから悪い、安いから良いという、単純なものではなく、どういう戦略に基づくか、そこにポイントがあるのだろうと思います」(458ページ)

この、コカ・コーラのような価格政策はよく知られていますが、中小企業にとっては難易度が高いようです。というのは、小売店にインセンティブを与えるとはいえ、製品自体の品質が高くなければ、高い価格で販売することは合理的ではなくなるからです。すなわち、製品のブランドを確立しなければならないわけですが、そのためには、労力や時間を要することが一般的です。

しかし、中小企業であっても、ブランドを確立し、高価格の製品の販売に成功している事例は珍しくありません。したがって、開業当初は価格の低い製品を販売しつつ、会社の体力がついてきたところで、高価格の製品の販売を行うという方法もあると思います。また、稲盛さんは、「値決めとは、高いから悪い、安いから良いという、単純なものではない」と述べておられるように、必ずしも、「赤字にならないギリギリの価格を見極めることが、経営者の能力である」と考えているわけではないということにも注意が必要です。

2023/11/11 No.2523

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