日本の企業にはガバナンス革命が必要
[要旨]
冨山和彦さんによれば、多くの日本企業は意思決定と実行が遅いため、アメリカ流の株主主権型やアジア流のオーナー主権型のトップダウンモデルに敗北しているそうです。その要因は、トップレベルにおいては最高意思決定機関である取締役会が、社内の部門の代表者会議になっており、メリハリのない意思決定しか行われないことだそうです。そこで、それを防ぐには、取締役会に、いわゆる独立取締役を置くことが重要だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、日本型のボトムアップ型の経営プロセス、すなわち、ムラ型共同体的な特質の強い日本企業は、組織内の不協和音を嫌うため、大きな意思決定ほどコンセンサスの形成に時間がかかりますが、経営環境の激しい現在は、そのようなプロセスは、企業の戦略行動に致命的な遅れをもたらすということについて説明しました。
これに続いて、冨山さんは、これからの日本の会社は、「共同体のワナ」から抜け出して意思決定を行うべきであるということについて述べておられます。「この際、アメリカ型の株主主権モデルを受け入れ、主権者たる株主の付託を受けたCEOに圧倒的な権力を集中させる『会社のかたち』にしてしまうのか。アジア圏の高成長企業の多くも、所有と経営が一致したオーナー主権モデルであり、アメリカモデル以上に権力集中型である。多くの日本企業は、意思決定と実行のダイナミズムとスピード感において、これらアメリカ流の株主主権型、アジア流のオーナー主権型のトップダウンモデルに敗北している。構造的な『決断力』負けと言えるだろう。
トップレベルにおいては、最高意思決定機関である取締役会が、共同体を構成する各部族の代表者会議になっていないことが肝要である。せっかく上程された尖った案が、部族代表者間の調整原理でメリハリのない意思決定に押し戻されるのを防ぐには、取締役会にムラの住人ではない『第三者』、いわゆる独立取締役を置くことが重要な意味を持つ場合が多い。執行サイドのトップクラスにも、当該ムラ社会に浸りすぎていない中途入社の人材が相当数いればもっとよい。そういったムラの論理から自由な人が、一部のムラの住人から見れば、ある意味、理不尽で不条理な決断でもできるように、経営陣の背中を押すことで、日本企業が『共同体のワナ』から逃れる可能性は高くなる。(中略)
ある意味、日立製作所などは、最も日本的なムラ型ガバナンスの経団連的優等生企業だったが、ここにきて業績が回復するのと並行して、ガバナンス面で大改革が進んでいる。海外での大胆なM&Aを大成功させ、公社から民営化した企業として、最もダイナミックにグローバル企業に変身した日本たばこ産業(JT)も、非常にオープンで若々しいガバナンス構造を持っている会社だ。これらの企業は歴史のあるニッポンの名門大企業、すなわち、最も『共同体のワナ』にはまりやすい企業だったが、いずれも積極的に複数の外部(独立)取締役を導入するなど、着々とガバナンス改革を進めているのだ。
こうしたガバナンス改革、いや革命には、やはり10年単位での長期的な努力を継続する覚悟が求められる。だが『革命』を忌避した場合、非オーナー経営の日本企業、すなわち大企業の多くは今後、なんらかの偶然で疑似オーナー的な経営者が出現し、その人が長期にわたり機能し続ける可能性に賭けるしかなくなるのではないか。ムラ社会で“よきムラ人”として認められ、出世した人物が、現代の厳しさに通用する大経営者となる確率は極めて低いだろう。結局、株主主権型、あるいは、オーナー主権型の欧米やアジア企業の傘下に入るしかなくなるのかもしれない」(201ページ)
私も冨山さんと同じ考えなのですが、別の面から日本の会社のガバナンスをとらえていました。というのは、法律では、日本の会社(株式会社)の最終的な意思決定は株主が行うことになっています。しかし、いまだに上場会社の多くは、従業員から社長に就いているようです。とはいえ、かつては、従業員が社長に昇格することが望ましい、従業員出身でなければ社長を務められないと考えられ、当然のこととして受け止められていました。そして、そのような従業員出身者が社長に就く体制は、経営環境が生産志向、販売志向の時代はうまく機能していました。
しかし、経営環境が顧客志向、マーケティング志向の現在は、前回もご説明したように、迅速な意思決定が求められるようになりました。そのような中で、社長が従業員出身で、他の経営者も従業員出身で、かつ、部門代表の場合、意思決定は、従業員の目線が入る余地は大きくなります。そして、繰り返しになりますが、そのような意思決定の方法に問題があるのではなく、現在の経営環境には向かないということです。ですから、会社の意思決定は、「部門の代表者」や「従業員の代弁者」が加わることがないよう、「独立取締役」が意思決定に加わる意義は大きいと思います。
ちなみに、冨山さんは「独立取締役」という言葉を使っていますが、日本の会社法には社外取締役に関する規定はあるものの、独立取締役という言葉の定義はないようです。また、証券取引所は、上場規程によって「独立社外取締役」を規定し、上場会社にその選任を推奨しています。しかし、冨山さんの言う独立取締役は、私の想像ですが、米国などでよく見られるいわゆるプロ経営者のことではないかと思います。いずれにしても、従業員出身ではなく、ムラの論理に左右されず、共同体のワナにはまらない意思決定ができる経営者のことだと思います。もちろん、そのような方が社長になる場合もあると思います。
そして、最後にお伝えしたいことは、ガバナンスと業績は結びついているということです。業績の良し悪しは、これまで、よい製品をつくり、よい商品を販売し、よい販売方法に左右されると考えられてきました。もちろん、それらは直接的な要素ですが、よい製品、よい商品、よい販売方法を生み出し、維持するためには、よいガバナンスが必要になります。このガバナンスは無形のものであり、普段から意識していないと、なかなか理解しにくいものですが、現在は、ガバナンスの重要性が増しつつあるということを、多くの経営者の方は認識する必要があると言えるでしょう。
2024/8/7 No.2793
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