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リスクをとることで最大の果実を得る

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、2007年に、約100億円という巨額損失を抱えていた長崎屋の買収をしたときは、銀行や役員・幹部も反対していたそうですが、安田さんはそれらの反対を押し切ったそうです。しかし、同社では、M&Aを繰り返しながら、様々な経験やノウハウを積み上げてきた結果、想定外の事態が発生しても、余裕を持って対処できるようになったということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安田さんによれば、経営環境が不確実な時代は、リスクをとってもとらなくても、成功したり失敗したりする、すなわち、リスクをとらないのが一番のリスクとなる時代であるので、自ら選んだ道でリスクを受け止めながら、切磋琢磨し続ける人こそ、より大きな成果を得ることができるということについて説明しました。

これに続いて、安田さんは、会社が成功に至った要因のひとつは、リスクに果敢に挑んできたからだということについて述べておられます。「ドン・キホーテは2007年10月に長崎屋を買収したが、これに関しては、社内で多くの反対の声があがった。長崎屋は2000年に会社更生法を適用後、新たなスポンサーのもとで再建を目指していたが、斜陽と化していたGMS(総合スーパー)業態ということもあり、その経営不振ぶりは何ら改善されず、累積損失は100億円を超えていた。

ちなみに、2007年当時の当社の営業利益は約135億円。そんな巨額損失を丸々抱えての買収には、銀行や証券アナリストたちはもちろん、当社役員・幹部もほぼ全員が反対だった。身の丈に合わないリスクをとるべきではないというわけである。しかし、私は反対を押し切った。長崎屋の買収によって、50店舗以上の好立地物件を手に入れられる上、買収後に上げた利益が累積損失分の金額を超えるまでは、収益を上げても課税対象外となり、逆にこれが大きな経営資源になると確信していたからだ。

実際、当社はこの買収を経て、長崎屋を業態転換した『MEGAドン・キホーテ』という、ドン・キホーテと並ぶ現在の主力業態を確立することができた。リスクをとって、最大の果実を手にしたのである。長崎屋はほんの一例に過ぎないが、当社ではこうしたM&Aを繰り返しながら、同時に様々な経験やノウハウを積み上げてきた。想定外の事態が発生しても、余裕を持って対処可能な域に達することができたのも、果敢なM&Aから得られた産物だった。

リスクをとらずに逸した果実のことを、後から『逃した魚は大きい』などと言って悔やむ人がいるが、一見もっともらしい。安易で陳腐な手法に逃げ込んでしまった自分自身の姿勢をこそ戒めるべきなのである。ただ、頭がよくて優秀な人ほど、リスクをとるのは難しいようだ。これは余談だが、とあるキャリア官僚の方と会食した時のことである。私が話の中でふと、『あなたほどの能力と知力があるのなら、リスクをとって(役所とは)違うところで活躍すれば、大成功したのではないのですか?』と水を向けたところ、『なんで私が、そんなリスクをとらなきゃならないんですか』と、怪訝な顔で返された。

さらにその顔にはこう書いてあったのだ。『私は学生時代からそれなりの努力をして、いい学歴を手に入れて役所に入り、なるべくリスクのない人生を歩もうとしてきた。なのに、なぜ?』と。私は、『なるほど、こう来るのか』と思いながら、畳みかけるように、『リスクをとったって死ぬわけじゃないし、実力があるのなら、起業でもした方が楽しかったのでは?あなたは今のポジションに本当に満足されているのですか?』と聞いたら、さすがに嫌そうな顔をしていた。余計なお世話だったようである」(77ページ)

長崎屋の買収は、結果的には成功ということは分かっていますが、同社を買収する前の、2007年6月期のドン・キホーテの総資産額(連結ベース)は2,099億円、純資産額(同)は825億円ということを考えると、100億円の負債を引き継ぐことは、確かに、賭けという面はあったと思います。ちなみに、ドン・キホーテは、100億円の負債を引き継いだだけでなく、長崎屋の株式を取得するために、約140億円を支払っているようです。

もちろん、安田さんは、長崎屋の買収の判断は一つの例として挙げているのであり、リスクに果敢に挑むことが成功する大きな要素であるということをお伝えしようとしています。一方で、安田さんは、リスクを取ろうとしないキャリア官僚に対して残念に思っているようです。もちろん、リスクに果敢に挑むことをよしとする人生もあるし、リスクは避けた方がよいとする人生もあるので、これについてはどちらが正解ということはありません。

というよりも、これは批判ではありませんが、官僚や大企業には、リスクを避けたいという価値観を持っている人が多く集まる職場とも言えます。一方、会社経営者という職業に就いている人は、リスクに果敢に挑まなければ、もったいないのでは?と私は考えています。むしろ、現在は、そのような人でなければ経営者は務まらなくなりつつあると思います。ちなみに、リスクに果敢に挑むことと、リスクに対して何ら対処せずに無鉄砲な経営をすることは、言うまでもありませんが、まったく異なるということを付言しておきます。

2024/8/24 No.2810

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