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人事評価を自分の短所を補う機会にする

[要旨]

冨山和彦さんによれば、組織の中で上に行けば行くほど、自分に対して厳しい意見を言ってくれる人は少なくなるので、人事評価は周りが自分をどう見ているかを知る貴重な機会でもあるととらえ、周りからの意見というのはとりあえず素直に聞いたほうがよいということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、敗北をしっかりと抱きしめ、それが会社やまわりに与える被害を最小化するために身を呈して最後まで頑張り、最終責任を引き受けるような見事な負けっぷりができる人事は、将来、超有望なリーダーになるということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、自分に対する評価をしっかり受け止めることが大切であるということについて述べておられます。「課長は部下を評価する一方で、自分も評価される立場にある。果たして、自分に対する評価をどのように受け止めるべきだろうか。これに対しては、建前論と現実論がある。まず、建前論で言えば、上司が下した人事評価をもとに、自分を客体化し、足らざる部分を補っていく。単なるきれいごとではなく、周りからの意見というのはとりあえず素直に聞いたほうがよい。

組織の中で上に行けば行くほど、自分に対して厳しい意見を言ってくれる人は少なくなる。上司に本気で意見をしてくれる部下なんていやしない。お追従で本気とは真反対のことを言う部下だっている。すると、人はだんだんと自分を見失ってしまう。肩書きだけで中身がない人になってしまったり、肩書きにしがみついて組織に害悪をまき散らす人になってしまったりする。それだけに、人事評価は周りが自分をどう見ているかを知る、貴重な機会でもある。

一方で、現実論として人事評価というのは、非常に政治的なプロセスである。上司が評権、人事権を持っているからこそ組織の秩序が保たれているので、評価の局面においては、その組織の持っているポリティクスが反映される。端的に言うと、どういうタイプの人が評価され、出世していくのかは、そのときどきの組織文化やトップマネジメントの考え方などによって変化する。古い大組織であれば、派閥の力学が働くことも多い」(238ページ)

この冨山さんのご指摘は、私もその通りだと思いうのですが、「組織の中で上に行けば行くほど、自分に対して厳しい意見を言ってくれる人は少なくなる」という部分を読んで、あることが思い浮かびました。というのは、会社を起業した方のうち、半数を超えているとまでは行かないまでも、低くない割合で、肩書きや権力を得るために社長に就いたと感じられる方がいるということです。

そして、残念ながら、そのような方たちは、悪い意味でワンマンです。自分のやろうとする事業は間違いがないので、これは私には理解できないのですが、事業の成果である財務情報についてあまり関心がないようです。自分に絶対的な自信があるから、財務情報を見るまでもないと考えているのではないかと思います。ただ、これは当然と言えば当然と言えると思うのですが、私のような財務を専門としているものから見ると、実は、それほど業績はよくない、むしろ、赤字のことが多いです。

そして、その詳細な原因を究明しようとしても、最低限の会計記録しか行われていなかったり、また、もともと不正確な会計記録しか行われていなかったりするので、それもなかなか究明できないということが多いです。そして、このようなことを言う人は、私は直接お会いしたことはないのですが、知人の税理士の方から、ある税務顧問の経営者の方に、「あなたはあまり腕のいい税理士ではないですね」と言われたそうです。

これに対して、「なぜですか」と理由をきいたところ、「当社のような優秀な会社の決算書がなぜ赤字になっているのですか。当社の決算書が赤字なのは、税理士であるあなたの腕に問題があるのではないですか」と言われたそうです。ここまで極端な人はあまりいないのかもしれませんが、私も、これまで、会社が赤字なのに、決算書をよく見ずに、「当社は優秀な会社なのに、銀行はなかなか融資に応じず、問題だ」などと、我田引水的な考えをしている経営者の方に、何人もお会いしてきました。

ところで、当然のことですが、経営者の方の考えや判断は、必ずしもすべての人に賛成されるとは限りません。でも、事業活動は、販売先、仕入先、銀行などの多くのステークホルダーからの協力を得ながら行うものです。そこで、もし、自分の考えがステークホルダーに受け入れられない場合、ステークホルダーに粘り強く交渉し、協力を得ながら事業活動を続けるというようなリーダーシップの発揮の仕方は正しいと思います。

しかし、まったく他人の意見に耳に入れず、独善的に判断する、悪い意味でのワンマン経営者は、言うまでもなく、遠くない将来、事業が行き詰ります。そして、このことはそれほど理解が難しくないことだと思うのですが、他者が自分をどう評価しているのかに無関心という経営者の方が少なくないと感じていたので、今回、記事に書きました。もちろん、このようなことを書いている私も、自覚がないところで独善的になっているかもしれません。冨山さんのご指摘は他山の石にしなければならないと、改めて感じました。

2024/8/14 No.2800

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