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『後始末』ではなく『前始末』

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、業務を進めていて後で不都合な状態に陥るような場合は、事前に何らかの兆候を発しているので、そのシグナルを見逃さず、きちんと前始末さえしておけば、後で大騒ぎをする必要はなくなるそうです。すなわち、前始末という最小の努力とリスク負担で、最大の効果と成果が得られるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、かつて、安田さんは、売る側からの一方的な考え方しか出来なかったため、商品を売ろうとしても売り上げが伸び悩んでいたことから、逆に、無私で真正直な商売に徹することにしたところ、売上と利益が得られるようになったということについて説明しました。

これに続いて、安田さんは、リスク管理の大切さについて述べておられます。「前始末というのは、すぐれたリスク管理の概念だ。後始末、すなわち、『後で始末に困る』ような間違いは、実は、前始末で未然に防げることがほとんどである。(中略)私の経験則から言えば、業務を進めていて後で不都合な状態に陥るような場合は、必ず事前に何らかの兆候を発しているものである。そのシグナルを見逃さず、きちんと前始末さえしておけば、後で大騒ぎをする必要はない。

つまり、前始末という最小の努力とリスク負担で、最大の効果と成果が得られるのだ。実際に読者の皆さんも、『あの段階で気がついて、ちゃんと改善さえしておけば』と、後になって大いに悔やむようなケースが、結構多いのではないだろうか。もちろん、この前始末は、不都合な状態になる前の対応のみならず、新たな企画や業態などを立ち上げる時などにも大いに活かすことができる。

お客様の気持ちを察して、常にどうあるべきかを考えること、言い換えれば顧客心理に基づく前始末的対応が、その店や個人の成績の優劣を決すると言っても過言ではない。前始末の上手な人は、業務に潜む多面性と潜在リスクに対する感受性が強い。これは単なる臆病とか心配性とはまったく別のものだ。すなわち、目に見えない、表面に現れづらいもの、もっと言えば、ものごとの本質部分における認識力と理解力が高いのである」(148ページ)

私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきて感じることは、中小企業にとって、最も苦手な対応のひとつはリスク管理だと思っています。これにはいくつかの理由があると思いますが、その1つは、いわゆるオーナー会社の場合、トップダウンで号令を出すだけで、部下の方たちは疑問を持たずに指示に従うだけになってしまうからだと思います。

理由の2つ目は、人員や時間に余裕がないので、新しい課題をこなすだけで精一杯の状態になるからだと思います。しかし、これらは表面的な問題であって、もっと深いところでの問題は、事業活動を通しての学びがあまり得られないということだと思います。すなわち、社長が指示を出して部下がその通りに動くだけであれば、組織的な活動の利点はあまり多くないと思われます。

でも、プロジェクトごとに、社長と部下が振替になどを行っていれば、仮にプロジェクトがうまく行かなかったとしても、次のプロジェクトに活かせる学びなどを共有することができたり、失敗を避けるような対策を組織の共通のルールとして定めたりすることができるようになると思います。そうすれば、安田さんは、「前始末の上手な人は、業務に潜む多面性と潜在リスクに対する感受性が強い」と述べておられますが、そういう人を会社内に増やしていくことができると思います。

一般的に、大企業は中小企業よりもリスク管理が行き届いていると思われますが、その最大の理由は経営資源が大きいということだと思います。しかし、PDCAを実践して、活動を通して得られた暗黙知を共有していないという面も小さくないと思います。これができれば、「業務に潜む多面性と潜在リスクに対する感受性が強い」人が育成され、前始末を実践する人が増えて行くのではないかと思います。そのような中小企業は、リスク管理が実践され、強い会社になって行くと、私は考えています。

2024/8/27 No.2813

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