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『内部留保』はお金の出どころの1つ

[要旨]

いわゆる内部留保は、会計で使われる言葉ではなく、貸借対照表の純資産の部にある利益剰余金を指しています。これは、これまでの利益の積み重ねであり、貸方にあることから、お金の出どころが利益であるということを示しています。したがって、内部留保は、決して、会社が現金で貯めているものではなく、大部分は、機械や設備などの資産の調達に充てられたり、従業員の給与として使われたりしているものです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、貸借対照表では資産の額が示されており、それで会社の規模を把握することができますが、一方で、負債の額も示されており、負債によって会社の規模を大きくしている場合、会社の健全性が低いということになるので、貸借対照表は、グロスの面とネットの面からの多面的なアプローチで分析することが大切ということを説明しました。

これに続いて、高橋さんは、「内部留保」を誤って理解している人が多いということについて述べておられます。「『内部留保』という言葉を、聞いたことはないだろうか。よく、経済ニュースで、『企業が溜め込んでいるお金』のように紹介されるため、どちらかというと、悪いものというイメージが強いかもしれない。実際、そのような文脈で『内部留保を切り崩して、従業員の給料を上げろ』といった提言をしているコメンテーターも見かける。だが、会計に『内部留保』という言葉はない。

試しに、本物の財務書類を見てみるといい。どこにも、そんな言葉は見当たらないはずだ。では、内部留保は何かというと、多くの場合、BSの『純資産の部』に入っている『利益剰余金』を指している。言葉の細かい定義は置いておいて、ここでBSの右側は『お金の出どころ』であり、左側に流れている、変化していると説明したことを思い出してほしい。つまり、『利益剰余金』も、左側の『資産』を得るための『お金の出どころ』の1つなのだ。

『利益剰余金』は、経年的に積み上がり、左側の『現預金』や、その他『土地』や『有価証券』などの『資産』に変わっている。『事業で得た利益』=『事業から調達したお金』=『資産に変わるお金』であり、単なる『溜め込んでいるお金』とは、わけが違うのだ。内部留保なんて言葉を使うと、あたかも『金庫にとってあるだけの現金』という感じがする。しかし、今もいったように、『利益剰余金』は、左側の『資産』に変わっている。

しかも、『利益剰余金』からは、株主への配当を支払わなくてはいけない。企業が稼いだお金を『金庫にとってある』ことなど、まず、ありえないのである。すると、『内部留保を切り崩せ』の何がおかしいかも、わかるはずだ。これは、利益の額だけを見て、『こんなに儲けたのだから、もっと使え』と言っているのと同じなのだ。利益が、処分しにくい資産に変わったり、株主配当に使われたりしていることがわかっていれば、一笑に付すべき提言なのである」(71ページ)

利益剰余金のことではないのですが、稲盛和夫さんは、京セラを起業して間もないころ、貸借対照表の「資本金」は、その金額分の現金が、金庫かどこかにしまってあると勘違いしていたと、ご著書に書いておられました。でも、利益剰余金も、資本金も、貸借対照表の貸方(右側)、すなわち、お金の出どころを示しているわけですから、それらは商品を仕入れて在庫になっているかもしれないし、機械を購入して固定資産になっているかもしれません。もちろん、すぐには使われずに、銀行預金になっているかもしれません。

このように、貸借対照表の貸方にある科目はお金の出どころであるということを理解していれば、「内部留保を切り崩して、従業員の給料を上げろ」といった見当違いの主張をすることはしないでしょう。ところで、しばしば、「企業の内部留保が過去最高を更新した」と報道されることがあります。内部留保が過去最高を更新したということは事実なのかもしれませんが、内部留保がどういうものなのかを理解している人は、毎年、過去最高を更新することは当然のことと考えるはずです。

なぜなら、内部留保は、前年の内部留保に、今年、新たに獲得した利益を追加した金額だからです。これに対して、売上高や経常利益は、1年間の数字なので、事業が順調なのであれば過去最高額を計上することはあまり難しくないこともあるかもしれませんが、それでも前年を上回る数値を得るには、それなりの労力が必要でしょう。一方、内部留保は、今年獲得した利益が1円以上であれば、内部留保額は過去最高になります。ちなみに、2023年3月期の京セラの利益剰余金額は、1兆1,930億円です。

確かに、「内部留保が1兆円もあるのなら従業員に還元するべき」と、一瞬、考えたくなるかもしれません。でも、同社の現金及び預金は1,100億円しかありません。1,100億円は決して小さい金額ではありませんが、内部留保の1兆1,930億円に比べれば10分の1です。したがって、同社は内部留保をきちんと資産に変えて有効活用していると言えます。このように、内部留保が多い会社であっても、単に、その相当の金額のお金を金庫にしまっていたり、銀行に預けていたりするわけではないのです。

2024/6/18 No.2743

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