見出し画像

夜のために在る六等星を見つけに。 最果タヒ展

 3月、関西に写真教室に行くついでに、やりたいこと全部やってやろうと思っていた1つが、最果タヒ展へ行くことだった。
 私は最果タヒの詩集を手元に持っている正しい読者ではないのだけれど、最果タヒの詩に触れる機会が何度かあって、文章のようだけど、やっぱり詩で、なんか違和感があるけど成立している。そういう言葉の組み方と、私が文章を書くときに、センテンスが長くなるからと意識し過ぎて逆に付けすぎてしまう句読点をふんだんに盛り込んでいるのに、あまり嫌な感じを与えないどころか、それが音符のメリハリのようにリズムになっていることの不思議を感じるなと思う人だ。そんな詩人が、詩を展示するのだ、気にならない訳がない。それに、「詩を展示する」ということが、一体どういうことなのだろうかという興味がすごく湧いて、その世界観を目撃できるなら、しなければと。

 会場は、心斎橋PARCOの14階。まず、PARCOが元SOGOのあった場所であることに衝撃を受けたと共に、「心斎橋のクアトロがなくなってるのだから、そうか。」などと、よくわからない理屈で自分を納得させた。エレベーターに乗ったのに、間違った気がして、11階で降りる。展示を見に行く前に、エスカレーターを撮りたい衝動に襲われ、少しファインダー越しに世界を見つめてみるも、思ってる感じに撮れなかったので、よし!とは思えずだったが、時間に余裕のないことを思い出し、ここがPARCOで合っていると確信を得て、エスカレーターで14階へ向かう。

画像1

会場に着いた瞬間、目の前に文字で埋め尽くされた壁が現れる。詩がでかでかと書いてあるのだ。

画像2


 チケット代を払い、会場に入ると、映像作品と映像による撮影は不可であったが、写真はOKだったので、見たいは撮りたいはで、気持ちが忙しい(写真撮影できたので、この写真たちが存在する)。
 詩を展示するということが、どういうことかを、入ってすぐに理解する。アクリルで抜かれた文字たち、立体物に線のように書かれている文字たちが、詩ではあるけど、それで1つの作品として存在している。アクリルの詩は、とても読みにくかったけれど、この形態にすることがとてもよくわかるので、具現化されたそれを見て、しばし感心した。
 だけど、この展示を超える空間が、次の部屋で待っていた。詩を書いた紙がずらっとモビールのような形で吊るされている。1つのモビールに6枚くらい連なっていて、裏と表に文字が書いてあり、さらには色が白と黒で分けられている。触らないようにとの注意書きがあるものの、体に接触せずに作品を鑑賞することはなかなかに厳しいなと、最新の注意を払って見る。
それこそ文字が浮かんでいるというか、漂っているかのようだった。少しの風で紙が揺れ、読んでいてもその文字が自分から離れていったり、裏返って見えなくなってしまったりする。読み方も捉え方も、全部見るものに投げられていると感じるし、それで成り立ってしまうのが最果タヒの詩なのだなと、圧倒された。

画像3


 本で見る詩は、そこに書かれている文字の順序で読む以外で追うことはしないし、例え文字が自由に分散されて印刷されていたとしても、それなりのリズムを持って読もうとするし、そのページを捉えるだろう。それをさせてくれない、いや、その必要がないように、自分の中で留まる言葉で、自分の中での最果タヒの詩を組み立てて心に残してもいいという、そんな印象を受けた。それができるくらいに、ひとつひとつに書かれている言葉が、それだけで強いのだ。

画像5


画像6


 このモビールの空間にいるだけで、何時間でもいようと思えばいれるのではないかというくらいに、たくさんの言葉に埋め尽くされた海のようだった。詩の流れの中を縫うように見るものが泳ぐと、文字の濁流が起こって、好き勝手に流れだす。時には底に沈みながらただ白黒を眺めていると、少し薄暗い場内を照らすトップライトが、まるで海底から見る太陽のように思えたりもする。

画像7


 この展示の奥の壁に、反射する鏡の欠片のようなものが点在するようにあって、そこに詩が普通に詩として展示してあるのだけれど、これだけは、書かれた通りに、そのまま見る人に捉えてもらうためなのだろうなと思った。

画像4


 最後の部屋の展示も、すごく工夫されていた。本棚の背表紙に、タイトルのように詩が書かれているのだけれど、その発想が面白いなと。あるようで、ないような、そんな展示のオンパレードだった。

画像8


 詩を見る、という感覚を味わえたことが、とても刺激になったし、改めて最果タヒの言葉の凄さに打ちのめされた日だった。
 見終わった後、地下で出店していた高級芋菓子しみずで、最果タヒ展とのコラボパフェを食べた。コースターに、最果タヒの詩が書いてあるのだ。
 パフェは、絶品だったし、大満足だった。

画像9


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?