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【読書感想文】有川浩(有川ひろ)/レインツリーの国


 有川浩(有川ひろ)を最初に読んだのは「図書館戦争」だと思う。 「レインツリーの国」の名前を知ったのはこの時だった。

 しかし、スピンオフ的な感じなのだろうと思って、当時は流してしまっていた。図書館戦争シリーズ本編が気になったからそちらを優先した、ということもあったろう。

 先日短い間だが仲良くなった女性がいて、有川浩の話になったのだが、僕は「植物図鑑」が一番好きだという話をした。すると彼女が一番好きだと挙げてくれた本がこの「レインツリーの国」だった。

 上記の通りスピンオフのような気がしていたので、この作品が一番好きな人がいるというのは少し意外だった。(といっても有川浩について誰かと語ることは少なかったので意外でもないのかもしれない。)その人と小説の話の続きをしたいということもあったし、純粋に図書館戦争が好きなので読んでみたいなと思い、僕はこの本をすぐに購入した。250ページほどの小説でとても読みやすい本だった。

ーーー以下ネタバレ&感想ーーー

 「レインツリーの国」というのは読書レビューをしているサイトらしい。
 ちょうど僕が高校生の頃の話なので、SNSなどが流行る前のコミュニティサイトやブログの前身といったものだろう。このあたりの描写は時代を感じさせるものだと思った。
 ここの管理者とメッセージでやり取りする「伸」という社会人3年目の青年が主人公だった。そして、ヒロインは同年代で聴覚障害を持っている「ひとみ」という女性。聴覚障害といっても、最初からそうだったわけではなく、後天的になっている『中途失聴』というものを患わっている。補聴器があれば聞こえないことはない、という意味で僕たちが普段想像する聴覚障がい者とは違うかもしれない。


この本は短編ながらよく研究されている。

 ・耳が聞こえない人に対して、すべてのケースで手話を使えばいいというわけではない。(中途難聴の人は手話は使えず、口の動きで推測することもある。)

 ・耳が聞こえないことを隠したい人もいる。

 ・耳が聞こえないと思ったと悪事を働く人もいれば、職場などのコミュニティで腫物に触れるように接する人もいる。

 ざっと思いつくだけでも上記についての描写がある。

 しかし、この小説が一番言いたいことは、あとがきに記載がある。

 私が書きたかったのは『障害者の話』ではなく、『恋の話』です。ただヒロインが聴覚のハンデをもっているだけの。
 聴覚障害は本書の恋人たちにとって歩み寄るべき意識の違いの一つであって、それ以上でもそれ以下でもない。ヒロインは等身大の女の子であってほしい。

この主張にはハッとさせられる。

 傍から見て、「苦労しているな」と自然と同情してしまうような人も、本人にとっては普通のことだったりする。このあとがきを見て実際に起きた一つの出来事を思い出した。

 僕は前の会社にいた時、同じ課の派遣社員さんがなかなか定着しなかった。営業部隊で外出が多いことから教える人がおらず、営業支援の部署との仕事のすみ分けも上手くなかったことから、周囲からあまりよく思われていなかったというのが要因の一つだろう。しかし、ある程度の期間働いてもらわないとその人の人となりも見えないし、仕事の中で見えてこないものも多い。そこで、上司が人事に掛け合ってくれて、この「レインツリーの国」に登場する「ひとみ」のように、「ゆっくり話せば聞こえる人」を契約社員で採用するか、(表現が良くないが)健常者を派遣社員で採用するか、という相談を受けた。

 僕は前者を契約社員で採用すべきだと主張した。長く働いてくれる人のほうがゆっくりと教えればやりがいを持ってくれると思ったからだ。

 しかし、結果的には会社は派遣社員を採用した。

 明確な理由はわかっていないが、僕は「ひとみ」のような人を契約社員をして採用して、そのまま定着してやりがいを持ってもらえるように出来たがどうか、この本を読んで自信がなくなった。契約社員は派遣社員よりも長く働ける一方で、もし合わない場合には一定期間我慢してもらわなければならない。それを我慢ではなく、やりがいを持ってもらえるようにサポートできるのか。それも、自分の責務を全うしながら。



 この本は恋愛小説だ。だけど、普段近くにいる人と接するときのことを考えさせられる本だった。

 ちなみにこの本を教えてくれた方は高校生の時にこの本を読んだらしい。僕が思春期にこの本を読んだらどんな気持ちになったんだろう、ということをもう少し話をしたいと思った。

 最後に、この「レインツリーの国」が出てくる「図書館内乱」のエピローグに「ロマンシング・エイジ」というエピソードがある。本編でレインツリーの国を薦めた小牧くんと毬江ちゃんの恋愛のその後が描かれている。図書館戦争シリーズは防衛・SFもので独特の世界感がありながらも、こういった有川浩らしい爽やかな描写がある。こういうのを見て少し幸せな気持ちになると、「やっぱり有川さんの小説はいいな!」と素直に思えてくる。

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